第6話 休日
社長と俺だけの小さい会社なのに、有難いことに土日は休みだ。
以前いた会社の先輩だった人が起業し、それに誘われて転職したものの、仕事は軌道に乗っているとは言えない。
さっさと女子社員の一人でも雇ってほしいが、当然、そんな余裕も無い。
俺はもともと経理をしていたから、それと似たようなこともしているが、小さな会社だから雑用でも営業でも何でもやらされる。
社長はほとんど外回りだから、俺は会社で一人のことが多い。
まだ碌に取引先も無く、電話一本かかってこない日も当たり前。
土日も一人暮らしだから、誰かと約束でも無い限り一人だ。
一人で目覚め、一人で朝飯を食い、洗濯や掃除を済まし、一人でゲームをしたり本を読んだりして時間を潰す。
ふと窓から外を見ると、隣のマンションの壁が夕焼け色に染まっていて、いつの間にか時間が経っていたことに気付く。
夕暮れの道を一人で買い物に行き、誰のためでもなく自分のための食材を買う。
普段はコンビニ弁当や外食で済ますけど、休日くらいはと自炊する。
最近、蒸し暑いから、酢の物や冷ややっこなど、さっぱりしたもので晩飯を食う。
昔、母親が作った酢の物にはミョウガが入っていて、それが好きでは無かったのだが、何故か無性にあの味が食べたくなってそれに倣ってみた。
懐かしいけれどどこか違う味がした。
土曜も日曜も、同じように時間は過ぎ、また同じような一週間がやってくる。
正直、憂鬱だった。
一人でいることは嫌いじゃないし、非日常的なことを求めるタイプでも無いけれど、あまりにも繰り返される日々が無為に思えて、チェーンの外れた自転車のペダルが空回りしてるみたい。
前に進んでないし、風景も変わらない。
何日も会話らしい会話をせず、それこそ声を出すことすら無いと、脳細胞が壊死していくようで、思考は希薄になって、感情は鈍く重くなる。
電気を消して、そろそろ寝ようと思ったとき、テーブルの上の生徒手帳が目に入った。
そういや、まだ返してなかったな……。
先週はコイツのお蔭で随分と救われた気がする。
今も、写真の笑顔を見ただけで、感情が動き出し、ぼやけていた視界が明晰になっていくようだ。
って、十二歳も年下の女の子に救われてちゃ駄目だよなぁ。
会社に他の社員でも入れば、何か変わるだろうか。
誰かともっと会話する環境になれば、何か違ってくるだろうか。
いや、でも、こんなヤツ、他にいないよなぁ。
ったく、生意気にも唯一無二かよ。
俺はその笑顔の写真にデコピンをくれてやり、電気を消してベッドに潜り込んだ。
内容は憶えていないけれど、珍しくいい夢を見た気がする。
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