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あめ つち ほし そら
むかしむかし、とある村は呪われていると言われていました。
見渡す限りの田居の稲が枯れ果てたり、子どもたちが神隠しに遭ったり、はやりやまいに見舞われたり、墓場で死人が狐火の中で舞い踊っていたり、ひどい有様でした。
しかし、周りの村からは呪われるには呪われるなりの業を背負っているのだろうと行き来を断たれ、村を捨てようとすると役人たちからの厳しい沙汰が待っていました。
しかし呪われるような心当たりもなく、皆、暗い気持ちで暮らしていました。
そんなある日のことです。
どこからか、とても美しい娘がこの村へやってきました。
娘は抜けるように色白で、髪の毛は山の木々のような緑色でした。
娘は村をぐるりと歩き回ると、鈴を振るような声で言いました。
「ここを守れば、あなた方は私を守ってくれますか」
村人たちには娘が何を言っているのかわかりませんでした。
「私はここへ住もうと思います。私と約束してくだされば、私は子々孫々に至るまでこの地を守りましょう」
こんな娘の言うことなど誰も信じませんでしたが、疲れ切っていた村人たちは、娘と約束を交わしました。
娘と交わした約束は二つです。
自分が棲みかと定めた、村はずれにある打ち捨てられた家の
余りあるときに余りあるものでよいので、娘とその子孫に食べるものを捧げること。
村人たちは余りあるときも、余りあるものも今はない、きっとこの先もないだろうと言いました。しかし娘が笑って、それならそれでよいというので、不思議な気持ちのまま村人たちはこの娘と約束をしました。
むろ こけ いぬ
翌日、娘が住むと言っていた一族死に絶えて住むものもない家の裏に、村人たちは行ってみました。すると、今までなかった大きな柳の木が家を支えるように生え、根元にあの娘が立っていました。
「よくこのような場所へ村を構えたものです。ここは様々な穢れの吹き溜まりなのですよ」
娘はそういうとすうっと幹へ吸い込まれるように消え、さらさらと柳の枝が揺れました。
不思議と、この山を覆っていた、何となく総毛立つような重く暗い空気が消え、澄んだ風が吹いています。
その清らかな風は村全体に広がり、不吉なことはぱたりと起こらなくなりました。やっと穏やかな日々が村に訪れたのです。
村人はあの娘はこの柳の木霊だったのだろうと悟り、その家は祠として扱われるようになりました。
この話には、もう語るものが途絶えてしまった続きがあります。
ある日、川で魚を取った帰りの若者が、ふとあの祠とされる家へ立ち寄りました。
取れた魚を柳の木霊へおすそ分けしようと思ったのです。
そこには髪が緑色の美しい娘がいて、若者が小さな鮠を一匹手渡すと娘はそのまま一飲みにしてしまいました。
その若者は、娘に魚を振舞い、その家で過ごすうちに恋に落ちたとか、子を成したとか、狂って柳に斧を入れて死んだとか。
もう定かな結びは誰にもわかりません。
たゐに
<了>
星月夜の木霊【フリー台本】 江山菰 @ladyfrankincense
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