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たぬ「シャコウジレイ? とは?」


日読「人間の処世術。自分も相手も居心地良いように、好意に溢れた感じを取り繕って、本当はそう思っていないことを口にすることだよ」


たぬ「世辞とは違いまするか?」


日読「お世辞は、褒めるという行為が伴うけど、社交辞令は褒めるっていうより、友好的な態度を装うんだよ……ああ、説明してたら虚しくなってきた」


たぬ「人のなすことは不思議にござりまする」


日読「だろうなあ。人間から見ても奇奇怪怪だもん。俺は半分人間だからぎりぎりわかるけど、お前たちにはわからなくていいよ」


たぬ「あい」


日読「人間も、俺たちのことがわからないんだから、それでちょうどいい。人と、人でないものの間に立ち入り禁止の線引きはあるべきなんだ」


たぬ「若はどちらもお心得があり誠に頼もしくあらせられまする」


日読「どっちもわかるし、どっちもわからない半端者だよ。そしてどっちにもわかってもらえない」


たぬ「おさびしゅうござりまするか」


日読「まあね。完全に木霊だった母や祖母よりは、人の世界に未練があるよ」


たぬ「人にはござりませぬが、われらがここに仕りますによって、おさびしゅうはござりませぬよ」


日読「……何度も、俺と馴れあってもいいことはないって言ってるだろ? お前たちにとっちゃ俺が早く死んだ方がいいんだろうし」


たぬ「またそのようなことを」


日読「俺は後継ぎを作らない。俺が枯れて封じの契約が解けるころには、この集落は人間がいなくなっているだろうからそのときにはお前たちは自由だ。妖怪大戦争でも何でもやらかせ」


たぬ「さようなことはどうか仰せなきよう……我らは若も、おひいさまも、おおひいさまも、その前のおひいさまも、枝葉の糧となるべき我らを憐れみ給うてお目こぼし給うた。お慕い申し上げるのは当然にござりまする」


日読「そんなこと言うなって言いたいのはこっちだよ。人間と俺たちとお前たちは怖がりあって避け合ってるのが健全だっての」


たぬ「人間はさておき、封じるものと封じられたもの、仲良きことは美しきことなのではござりませぬか?」


日読「いやそれはストックホルムシンドロームといってな……」


たぬ「……人間にあらざれば、わかりませぬ」(犬がクーンと鳴くようなしょぼくれた感じで)


日読「はぁ……また要らんことを言ってしまった」(溜め息)


※風が木々を揺らす音


日読「いつ見ても、きれいな星だよな」(しばらく風の音を聞いた後、寂しそうに)


たぬ「あい……」


日読「……そうそう、まだひと切れ、鯉の煮付けが残ってた。持ってくか?」


たぬ「あい!」(俄然明るく)



※カラカラカラ(引き戸を開ける音)



      <終>

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