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※少しして藪がガサガサ鳴る

※ぴょこん(ユーモラスな登場音)


たぬ「若、夜分推参仕りまする」


日読「……はいはい、こんばんは、たぬ。今夜はひとりかい?」


たぬ「みな星見に出もうしたが、たぬは先ほどの人間が気がかりなればの居残りにござりまする。あやつは、なにやつにござりまするか」


日読「やっぱり見てたんだな……あいつは俺と一滴も血が繋がっていない弟だよ」


たぬ「道理で若の匂いとは全く違うてござりますな。弟君は如何様にここへ参られました」


日読「たぶん、母さんの守り札を持ってたから、引き寄せられたんだ。目くらましが効かなかった」(苦々しげに)


たぬ「若にはご機嫌がかんばしゅうなくあらせられまするか」


日読「……会いたくなかったんだ。俺、もう人間やめたし」


たぬ「兄弟仲おん睦まじゅうお見受けもうしたが」


日読「まあ仲は悪くはないけどさ、やっぱり俺みたいなのが、人のそばにいるとあまり良くない」


たぬ「若やおひいさまは、我らよりはるかに人とは遠くあるものにて、人には必ずや障りがござりましょう。約定の昔から、守り木はおみなにござりましたが、若はおのこにあらせられますれば、陽の気は格別」


日読「そうだね。守り木は代々、女だったから陰陽のバランスがとれてたみたいだし」


たぬ「若と初めてまみえもうした日、守り木が半ば人間のおのことて魂消たまぎれたものでござりまする」


日読「半分人間って言っても、人間から見れば十分バケモノだよ。俺の父はね、本当は普通の優しい男だったんだ。なのに、妻も、血を分けた息子も人間じゃないのに気づいて、だんだんおかしくなっていった。父が俺たちを受け容れようともがいているのは子どもながらにわかってたのに、もうどうしようもなかった」


たぬ「おひいさまが人間のおのこに御心みこころを奪われなんだらかようなことにはならざりしものを……」


日読「耳にタコだよ。それがあったから俺が木の股から生まれてんだよ」


たぬ「御意にござりまする」


日読「とにかく、父は俺たちを遠ざけて、あの親子と家族のきずなを持つことでもう一度本来の自分に戻れたんだ。そういう意味ではあいつらは俺の父親の恩人たちだ。俺があまり親しくして、あいつらまで父みたいに壊してしまってはダメなんだ」


たぬ 「うむむぅ」


日読「それにさ、あいつと会うと、俺にも里心があるんだなって気付くんだ。里心っていうか、人との繋がりを求める心っていうか……だからもう会うべきじゃない。人は人といるべきだ」


たぬ「しかしながらわからぬことが」


日読「何?」


たぬ「若が、弟君にまたゆるりと参られるよう仰せられたのは何ゆえかと」


日読「ああ、どうせここへはもうたどりつけないだろうから。もうどんなに探しても、ここへの道はひらかないよ」


たぬ「なんと……ならばなぜ弟君にかようなことを仰せられたので?」


日読「社交辞令ってやつさ」

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