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※食器を洗う音


日読「んで、爽太、今夜はどうすんだ? 泊ってってもいいけど」(食器洗いの音と重ねて)


爽太「いや、そろそろ帰るわ。明日も仕事だし」


日読「明日も仕事だってのにこんな遠いとこに来たのかよ」


爽太「思い立ったが吉日っていうし、仕事でストレスたまっててさ、バイクで高速とばしたい気分だったんだ」


日読「かえって疲れない?」


爽太「俺は若いですからね、お兄様」


日読「たった二か月遅生まれなだけのくせに」


爽太「同い年なのに、日読が年寄り臭いんだよ。そうだ、今度職場でさ、家族同伴OKのBBQバーベキューイベントがあるから一緒に行こうぜ。女子もたくさんいるし」


日読「やだよ。香奈枝さん連れてけよ」


爽太「そっちがやだよ! 母親同伴ってマザコンみたいじゃん。日読、ちゃんとした服着りゃ女子受けしそうな感じだし、喜ばれるって」


日読「えー……やだ」


爽太「詳しいことは、LINEで……って、電波悪いんだったな。明日アナログぅ~に封書で送るわ」


日読「人の話聞けよ」


爽太「聞いてるって。とにかく検討しといて」


※このあたりで食器洗いの音終了


爽太「じゃあまた来るわ」


日読「あ、これ香奈枝さんに渡して。糠漬ぬかづけと、魔除けのお守り」


爽太「うわ……あの、日読のお母さんのお札そっくり……」(気味悪そうに)


日読「これもお守り。俺が書いたんだぞ。ここいらの人間は自作してるって言ったろ?」


爽太「そういや、これ、何て書いてあるんだよ」


日読「あめつちのことばのバリエーションだよ」


爽太「あめつち?」


日読「意味のない言葉の羅列。詳しくは帰ってからググれ」


爽太「なんか、やっぱり気味悪いんだけど」


日読「落書きしようが、この紙でゴキブリ潰そうが別に何も起こらないから、ご遠慮なくどうぞ」


爽太「何で知ってんの」


日読「やったから」


爽太「うわぁ……」


日読「……とにかくさ、気休めに香奈枝さんに渡して」


爽太「うん、わかった」


※カラカラカラ(引き戸を開ける音、また閉める音)


爽太「え? なにこれ!!」(夜空を見上げて呆然と)


日読「なにこれって言われても……」


爽太「星がすげえ! 天の川見える!」


日読「ここじゃ普通だよ。」


爽太「迷ってるときはなんか真っ暗闇で気付かなかったけど、すげえな! ほんとにミルキーウェイだ! 黒い水に牛乳こぼしてぶわっと滲んだみたいだ!」


日読「爽太、結構ポエミーなことも言うんだな」


爽太「うるせーよ。ああ……いい風だな。空気もうまい……」


日読「風向きによっちゃ堆肥集積所たいひしゅうせきじょから熟成中のアロマが届くこともあるけどね」


爽太「さっきから人が浸ってるとこにそういうこと言うなよ……あ、さっきからカタカタいってる音、あれ何だ?」


日読「竹が風で揺れてぶつかり合う音だよ」


爽太「うおお! ワビサビじゃね?!」


日読「毎日聞いてるとわびもさびもないって。竹の根域制限大変なんだぞ。家の基礎とか割るし、床とか持ち上げてあいつら生えてくるんだからな」


爽太「ワビサビは近くにいすぎるとわからなくなってしまうものなんだな」(ぼそっ)


日読「今度は時間のあるときに来いよ」


爽太「おう!」


※バイクのエンジン音


爽太「じゃあ、おやすみ。飯ごちそうさん」


日読「おやすみ。星に見蕩みとれてんじゃないぞ。危ないから」


爽太「わかってるって。身体に気を付けてな」


日読「爽太もな」


※遠ざかるバイク音


日読「……確かに、いい星月夜ほしづくよだ」


日読「はぁ……いきなり来るんだもんなあ……」



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