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(ここからしばらくところどころに食器の音を入れられたら入れていただけると嬉しいです。また台詞は、何か食べているような感じでお願いいたします。)


爽太「うわ、漬物まで漬けてんの?」


日読「買うより安いからね」


爽太「母さんに日読の爪の垢飲ませたいな」


日読「香奈枝さんに? なんで?」


爽太「母さん、魚さばけないんだ。そもそも料理しないんだよ」


日読「え? 香奈枝さん料理上手じゃなかったっけ?」


爽太「あれ、冷凍食品とレトルトとデパ地下のやつ」


日読「は?」


爽太「わからないように、手作りっぽいやつ探して買ってくんだよ。そんで、うちの皿に盛り直すんだ。母さん、隠す才能は凄かったんだよ。まじ詐欺師」


日読「そうだったんだ」


爽太「でも料理の才能の方はゼロ。やっぱセンスってあるじゃん? 母さんのほんとの手料理って食えたもんじゃないって」


日読「香奈枝さんもそこんとこで苦労したんだ……」


爽太「呆れるだろ? ここ笑うとこだぞ」


日読「俺は気の毒な話だと思った。香奈枝さんは香奈枝さんなりにコンプレックスだったんだろうな」


爽太「そりゃまあそうだけど……あ、そう言えばさ、仕事ちゃんと探してんの?」


日読「いや、ばあちゃんが遺してくれた家もあるし、貯金もあるし、しばらくはこのままで……」


爽太「老後とかどうすんだよ」(前の日読の台詞に被せ気味に)


日読「うーん……そんなことより、おかわり、どう?」(間合いをのんびりとって)


爽太「……老後困りそうなのに人に飯振舞ってる場合じゃないだろ?」


日読「いや、それはさ……米とか野菜とか、もらいもんでやっていけるし」


爽太「施しもんをあてにしててもダメだって」


日読「そうだなあ、宗教家とか詩人とかやろうかと」


爽太「マジで言ってんの? もしかして、だから髪伸ばしてんの? キモいんだけど」


日読「キモい、かぁ」


爽太「いやわりと似合ってはいるけど、前みたいにスッキリ切っちゃえよ。俺の実体験上、髪の長い男にろくなのはいないぞ」


日読「あー、それわかる。反論できない」


爽太「髪長い男って、たいてい変な主義主張持っててクセが強くて付き合いにくいのばっかりじゃん」


日読「滅相もございません……いやあ、切ってもいいんだけどまたすぐ伸びてくるし、切り口から菌が入るし」


爽太「菌?! 髪から?!」


日読「冗談だよ。おかわり、いる?」(ちょっと笑った風に)


爽太「おかわり」(納得いかない風に)


日読「あっははははは……はい、どうぞ」


爽太「笑い事じゃないんだけどな」


日読「俺、入会地の管理をここの町内会から請け負ってんだ。それでちょっとは収入はあるし、家賃も払わなくていいし、水道は山水だし、一人で生きる分には何とかなる」


爽太「結婚とか考えたりしねーの?」


日読「ここいらにタゲれる女子がいるように見える?」


爽太「いやまあそうだけど、いずれは年取るんだし、真面目に人生設計したほうがいいぞ」


日読「大丈夫だって」


爽太「……現状だと、どう見ても孤独死まっしぐらなんだけど」


日読「大丈夫って言ったら大丈夫だって。俺と兄弟づきあいを続けるつもりなら、そういう話はNGで」


爽太「一応兄弟だから心配してんじゃん」


日読「香奈枝さんにも爽太にも絶対迷惑かけないように考えてるって。大丈夫、信じていいよ」


爽太「信じにくいよ」


日読「常識的に見れば、そうだろうな」


爽太「信じろって言ったくせに」


日読「あははははは」


※箸を置く音


爽太「ごちそうさま」


日読「おそまつさまでした。ごちそうさま」

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