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爽太「うーん……」


日読「まだこの話、続けなきゃダメ? もうこの辺でやめたいんだけど」


爽太「あ、ごめん」


日読「謝るほどのことでもないけど」


爽太「……ん? あれ? 日読、髪染めた?」(話題を逸らすように)


日読「いいや?」


爽太「今ちょっと濃い緑に見えた」


日読「このお兄様が、そんな色に染めるDQNドキュンに見える?」


爽太「だよな、ははは……あ、お茶かなんかある? ずっと山道迷ってたんで喉乾いたわ」


日読「ジャスミンティでいいなら」


爽太「シャレオツなの飲んでんな」


日読「お隣さんの横浜中華街土産だよ。水出ししていつも冷蔵庫に入れてんだ」


爽太「隣に家とかなかっただろ?」


日読「お隣さんくらいいるよ。400mくらい先に」


爽太「それって隣っていうのか?」


※コポコポ(コップに茶を注ぐ音)


爽太「あ、うまい」


日読「ジャスミンティも水出しするとうまいんだよ。あー、そうだ夕飯食ってく? 鯉の甘露煮、一日がかりの自信作だから」


爽太「……いま、鯉っつった?」


日読「うん、鯉。近所の人が田んぼの脇でとったやつをくれたんだよ。昨日までそこのたらいで生きてたよ」


爽太「鯉って食えんの?」


日読「普通に食えるよ。泥は吐かせてある」


爽太「……まさか自分で捌いたとか……?」


日読「当然。ばあちゃんに仕込まれてるよ。鯉はコツがあるんだ」


爽太「二十代の野郎の作るメニューじゃないし……」


日読「鯉は骨も硬いし力も強いから、男の方が料理しやすいと思うよ。俺は普通に出刃包丁だけど、ばあちゃんはミニ鉈使ってた」


爽太「鉈?!」


日読「引くなよ……」


爽太「いやワイルドなお年寄りだなって」


日読「田舎じゃわりと普通だって。鯉は精がつくんだ。ほれ、味見」


爽太「 えー?? ちょっと俺、川魚は……」


日読「つべこべ言わずに食ってみろ」


爽太「……泥くさそうだし……」


日読「だまって食え。ほら口開けろ」


爽太「やめろ、自分で食えるって! やめろってほんと! あっ……」


日読「ははははははは」(無理やり箸で突っ込む)


爽太「……んー? ……んんんー?? これ、ほんとに鯉?」(もくもぐしながら)


日読「鯉だってさっきから言ってるだろうが。小骨に気を付けて」


爽太「マジで、自分で捌いて煮たって?」


日読「だから、さっきから言って……」


爽太「ああ、わかった、鯉は捌いたとしても、アレだ、……最近煮魚の素って売ってるよな、スーパーの醤油売り場んとこに……アレで煮たんだろ?」(前の台詞に被せ気味に)


日読「そんなしゃれたもん使わないよ」


爽太「まじかよ……たいぶりを足して二で割った感じだ……旨い」


日読「そうだろうそうだろう。鯉を馬鹿にするな」


爽太「だってどうしてもニシキゴイ想像するじゃん」


日読「俺はニシキゴイ見たら食えるか考えるけど」


爽太「そういや、子供の頃も言ってなかったっけ? 庭に来た小鳥がおいしそうとかなんとか……サイコかと思った」


日読「ヒヨドリもツグミもちょっと前まで普通に皆食ってたんだから。ほら、よそったからテーブルに持ってけ」

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