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爽太「なあ、これ何なんだ?」


日読「これ、ここの集落に伝わるお札でさ、この辺の家じゃどこでも毛筆で手書きして玄関に貼ってるよ」


爽太「お札?」


日読「ここいらで生まれ育った人は迷信深いんだよ」


爽太「え……じゃあこれ、もしかして呪いのお札とか……母さんもこれ見てからちょっと頭痛がするって言い出して」


日読「俺の母親はそんなことする人じゃないって。ただの家内安全のお守り」


爽太「……へえ」


日読「俺の母親ってちょっと変わってて、最期まであんなDVおやじのこと好きだったし、香奈枝さんとの不倫を知っても、かえって好意的だったんだ。変だろ」


爽太「うん」


日読「周りは大変だったよ。植物みたいに、マイナスの感情を理解しない人だったからね」


爽太「ふーん……」


日読「じゃあ、せっかく持ってきてもらったんだし、額に入れて飾っとくか」


爽太「あのさ……母さんがさ、これ見つけてから夢見が悪いんだってさ」


日読「疲れが溜まってんじゃない?」


爽太「父さんが日読を殴ってたとことか、日読を引き取りに来たばあちゃんが泣いてたのとか、何度も何度も夢に出てくるんだって」


日読「あれは、香奈枝さんがこぶ付き同士で再婚して、息子が二人に増えて張り切ってた矢先だったもんなあ。『私、がんばってあなたのお母さんになるからね』って言ってくれてたとこだったしショックだったろう」


爽太「俺、学校から帰ったら日読がいなくなってて、自分の意思でばあちゃんとこに行ったって聞かされてたし」


日読「それでいいんだよ。俺としては、あいつと離れられて結果オーライ。ばあちゃんにはよくしてもらったし、かえって香奈枝さんと爽太があいつのサンドバッグになってないか心配だった」


爽太「葬式の時に初めていろいろ聞かされて、でもまだ俺信じられなくてさ……母さんや俺には優しい、いい父さんだったんだ。俺とは血がつながってないのに」


日読「俺も、葬式の時、それ聞いてびっくりしたよ。酒飲んで、鬼みたいな顔して俺の母親と俺を殴ってたの、爽太は聞かされてなかったんだなって」


爽太「……なんか、ごめん」


日読「何で謝るんだよ」


爽太「……俺たちがいなかったら、そういうことにならなかったんじゃないかって」


日読「それは明らかに違う」


爽太「なんでわかんだよ」


日読「お兄様はクレバーだからだよ」


爽太「二か月しか違わないだろうが。俺は真剣に聞いてんだよ」


日読「もう、うちは破綻してたんだ。夫婦関係も親子関係も」


爽太「親子関係が破綻って、あのとき、俺たちまだ10歳だったじゃん。親と修復不能になる歳かよ」


日読「こればっかりは説明しようがないんだ。肉親間にはいろいろあるのさ」

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