夕日に染まるいらか
紫 李鳥
夕日に染まるいらか
妹と一緒に、母さんから頼まれたおつかいから帰ると、家の前で、
「ねぇ、にいちゃん、みて。はがぬけた」
オレンジ色のマフラーをした妹が、白いミトンを脱いだ手に歯を持っていた。
「どっちの歯だ。上か? 下か?」
「んと、……した」
「じゃ、上に投げろ。そしたら、また生えてくるから」
「ん。せーの」
妹は、夕日を浴びた屋根に向かって放り投げた。
ポイッ!
ポトン!
「とどかない」
妹は落ちた歯を拾うと、手で拭った。
「もっと、上に投げるんだよ」
「だって、とどかないもん」
「思いきって投げてみろ」
「ん。せーの」
妹は背伸びして、爪先で立つと、思いきり上に放り投げた。
ポイッ!
コトン!
コロコロ……!
ポトン!
「あっ、おっこってきたぁ」
妹は拾うと、また手で拭った。
「落ちなくなるまでやんないと、歯、生えてこないぞ」
「ん。やるぅ」
妹の歯が屋根に留まったのは、夕日が沈むころだった。
ネギがはみ出した買い物袋に気づき、急いで家に入った。
台所に行くと、ネギと豆腐を待っていた母さんに叱られた。
けど、妹の歯のことを言うと、
「そうだったのかい。おまえがちっちゃいころに、母ちゃんが言ったのをよく覚えてたね?」
母さんはつくづくとそう言って、
「母さんからの受け売りってやつさ」
「また、きれいな歯が生えてくるよ。良かったね? ふふふ……」
母さんは妹にそう言って笑った。
「うん!」
妹は大きく
翌日。
……父さん。俺、やっぱ、高校行かないで働く。母さんに反対されるかも知れないけど、母さんばっかに苦労かけられないもん。
二階の窓から見える夕日に向かって、俺は天国の父さんに気持ちを打ち明けた。
夕日は窓の外をオレンジ色に包み、屋根瓦をきらきら輝かせていた。
まるで、父さんのやわらかな笑顔のように……
夕日に染まるいらか 紫 李鳥 @shiritori
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