9話 なんでそんな変な靴履いているわけ?
「なんでそんな変な靴履いているわけ?」
図書委員(勝手に任命されていた)の仕事を終えて、帰ろうと下駄箱の靴をとったら、どういうわけか学校一の美少女が声をかけてきた。というか、また難癖を付けてきた。
そもそもどうしてまだ学校に残っているのか。篠原水希にとっては理由のあることなんだろうが、俺には理解できそうにない。
「篠原、一応聞いておくが、変ってのはどういう意味で言っているんだ」
「変なものは変よ、おかしいってこと」
「このスニーカーの何がおかしいんだ?」
「あんた、そんなこともわからないの?」
「あいにく凡人なんでね。教えてくれると助かる」
この前も時計をバカにされたと思っていたら、篠原が興味を持っていたのは別の理由からだった。おそらく今回も難癖をつける理由があったから声をかけたんだろう。
わかった説明してあげる、と篠原は言い、俺のスニーカーを一つ手に取った。
「まず、あんたはいつもはローファーを履いている。だけどどういうわけか、一週間に一度、決まった曜日にこのスニーカーを履いてくる」
「相変わらず、よく観察しているんだな」
俺が言うと、篠原は恥ずかしそうに赤面して、首を横に振った。
「たまたま目についただけよ、だけど理由が気になるから」
「別に大した理由があるわけじゃないんだが」
「それと、このスニーカーって、なんかデザインが……」
篠原の言う通り、このスニーカーのデザインは少々奇抜だ。
まずこの靴の代名詞とも言うべき、黒のミッドソールに空気の入ったクッショニングシステム。その機能を示すために、あえて透明な素材で中の空洞が見えるようになっている。アッパーはまるで地層のような灰色のグラーデーションが連なり、差し色にはとびきり目立つネオンイエローが配色されている。シューレースは人体の肋骨のように靴を覆い、足にフィットする構造になっている。
ハイテクスニーカーブームを牽引したこの伝説の一足は、初めて見た人間には奇異な印象を与えるだろう。しかし、見れば見るほどその洗練されたデザインに魅了されいくはずだ。
「なんか、イモムシみたいね」
「は?」
「うん、どっからどう見てもイモムシね」
酷い言われようだった。伝説の一足をまえに芋虫とはなんだ。95年に発売されたこのスニーカーは日本で大きなムーブメントを巻き起こしたというのに、現代の女子高生にとっては芋虫同然か。
さすがの俺も反論しようとしたが、それを制して彼女は言った。
「それでこのスニーカーはどこで売ってるわけ?」
やっぱりそうなるのか。まあ、薄々予想はしていたけど。
「売ってないぞ」
「へ?」
「もう売ってないぞ、この靴」
篠原の硬直した姿を俺はまじまじと見つめた。
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