第15話 過去の事件④
ザーッザーッと、遠くから聞こえる音と共に、懐かし磯の香りがした。目を開くと、一面の青空には大きな太陽がキラキラと輝いて・・・
「て?え?へ?」
ガバリと体を起こすと、サラサラと背中の砂が落ちていく。目の前には青空と海水の地平線が美しく輝いている。
「え?う、海?!」
辺りを見回し確信した。俺は砂浜にいる。いや、なぜ砂浜にいるのか?
覚えているのは、渡部のバーで聞き込みをして、お酒を飲んで。
我に返った俺はスマホを取り出し、速攻で電話をかけた。
「よ、起きた?」
「や・ま・ぎ・し!」
「あ?怒ってる系?課長もイチが無断で遅刻してるから、怒ってるよー」
反射的に腕時計を見る。9時49分だ。
「とりあえず、課長には俺が上手く話をつけとくから、ラスト1日頑張っておいでよ」
「だいたい、こうなったのは山岸さんのせいでしょ!俺が酔って寝たなら、その辺の路地にでも捨てていけばいいのに、なんで海なんっすか!!」
「だって水流崎の地域を汚したくないからね。じゃ」
じゃって何だよ。切れたスマホと頭を抱えて俺は雄叫びを上げた。それをかき消すかのように、波の音が響く。こんな事してる場合じゃない。
「ラスト1日、最悪だ」
再びスマホをチェックするが、二葉からの連絡もない。御岳の線も消えてしまう。
ノロノロと重たい身体を立ち上げ、全身についた砂を払った。
「絶対証拠を掴んでやる」
家に帰ろうとバスを待っていた時、ポケットの中でスマホが鳴った。
「イチ、今どこにいる?」
「中西さん、今は西区の海辺にいます」
「お前が一番近いかもしれない。須賀で事件が起きた」
須賀とは区内の西に位置する場所だった。
「すぐ行きます」
電話を切ったものの、バスは来る気配もない。タクシーが通るのを待つか。
新しい事件に時間を取られると、片瀬の事件は自殺で報告書を出さなければならない。どうにか、早急に解決し、何でもいいので、手がかりを見つけなくては。
待ち時間を有効に使うため、俺は再度二葉にメールした。
「御岳君の連絡先、分かった?」
次に瓜生。
「須賀の事件の概要を教えてくれませんか?」
最後に山岸を着信拒否設定にする。これくらいやらないと、俺の気が収まらない。
よし、完璧と思った時、遠くにタクシーの姿が見えた。
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