第14話 過去の事件③

「この水流崎の飲み屋街は、気質な店が多いんです。一般の方には分かりづらいかもしれませんが、ヤクザもいない、歴史ある水流崎のブランドというのは、私たちの誇りなんです」


言われてみれば、怪しげな風俗店などもなく、キャッチもほぼいない地区である。


「ただ、お客様は様々なので、中には無銭飲食だったり、過度な性的サービスを求められる方もいらっしゃいます」

「大変れすね」


飲んだ酒が強かったのか、呂律が回らない。


「普段なら警察を呼んで処理して頂くのですが、あまりに行き過ぎた行為があると、みせしめが行われます」


少し困った表情を浮かべながら、内密ですよと、再び俺のグラスにバーボンを注いだ。


「ゲリラサッカーとは、そういったお客様を路上で蹴るという、代々ここに伝わった策です」

「け、蹴るんすか?」

「もちろん、加減をしつつ、ですが。1人が蹴り続ける訳ではなく、その場に居合わせた地域の人が複数参加し、蹴ったら逃げる、という行事です」


まさに集団暴行事件だ。サラリと恐ろしい事を言うな。


「怪我人は出るものの、死者が出ることはありません」

「被害者から訴えられたりしないんですか?」

「そもそも被害者といえど加害者ですし、治安維持が目的での、みせしめ行為なので、ここの地域の人は目撃者にもならないですから」


生きている人間の怖さを、改めて感じた。


「で、そのゲリラサッカーですが、最後はいつ行われたんれすか」

「半年くらい前でした」


怖いという感情と、自分の正義に対する気持ち、度数の強いアルコールで、頭がクラクラする。


「被害者は、どんな人れしたか」

「どんな方かは存じませんが、ストーカーのように、ある女性に付き纏っていたようで、そこから暴力的な事件も数回起きていました」


被害者も加害者で、その事件が俺が追っている事件とつながるかも分からない。


考えなきゃ。考えろ。何を聞けばいい?この話の先に、俺の求めた答えがあるのか。


「あぁ、良平、忘れてた。こいつ、酒に弱いんだった」


暗くなっていく視界の隅にいた山岸が笑っていたように見えた。




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