第13話 過去の事件②
棚には上から下までギッシリと沢山のボトルが並んでいる。それを背にカウンターの中に入る渡部は、お洒落なポスターの一部のように、その景色に馴染んでいた。
「こちらのオーナーが、渡部海斗君。俺の高校時代の同級生だ」
カウンターの隅に座った山岸もまた、それなりに絵にはなったが、渡部の空気感とは、また違っていた。
「ど、同級生?!月とスッポンっすね」
「俺が月だろう」
満更でもなさそうに山岸がヘアスタイルを整える。
「で、イチは何しに来たんだ?」
雰囲気に飲まれ、すっかり忘れていた。片瀬の事を聞かなくては。
「あの、渡部さん。この前亡くなった片瀬さんの事をお伺いしたいのですが」
「修二と同じ、ですね」
修二とは山岸の下の名前だ。大きな瞳を細め、柔かな口調で渡部は言った。
一通りは山岸が聴取済みだろう。てことは、変化球を投げてみた方がいいか。
「片瀬さんは、何かこう、変わった所とかありましたか?こう、個性的な趣味がある、とか、変わった遊びをしているとか」
「暴力的な部分はありましたが、性格はストレートでしたよ」
何だその質問というように、山岸が鼻で笑った。
「ここ数ヶ月、変わった噂は聞いた事ありますか?」
視界の隅にいる山岸が、僅かに頷いた。
「噂ですか。どんな系統の噂が知りたいですか?」
「どんな系統・・・ですか?」
予想の斜め上をいく返答に、思わずおうむ返しをしてしまう。
「プライバシーの観点からお話出来る点は限られていますので、もう少しポイントを絞って頂けたらありがたいのですが」
「は、はい。では、片瀬さんの噂からお願いします」
「噂という噂はありませんでした」
一撃で俺は軽く撃沈した。いやいや、ここで終わる訳にはいかない。
「では、この辺りの噂はありますか?誰かが怪我したとか」
「怪我ですか。喧嘩や恐喝、小競り合いは日常茶飯事です」
酔っ払いの多い地区だ。ある程度は、何かしら事件があるだろう。
「その中でも、ちょっと違うなというもの、渡部さんの感覚でいいので、ありませんか?」
「この地域特有のものがあるとしたら、ゲリラサッカーですね。昔は贖罪の山羊とも呼ばれていましたが」
「ゲリラサッカー?山羊?ですか」
「はいはい、そこまで。こっからは、酒のツマミの世間話だぞ」
手帳にメモを取りながら横を見ると、山岸はいつの間か氷の入ったグラスを傾けている。
「そうです。修二と神代さんと私の、他愛ない世間話です」
渡部はカウンターからグラスを取り出し、丸く切り出された氷を入れる。
「少しだけ、どうぞ。奢りますから」
「そいつ、バカ舌だから、安い酒でいいぞ」
ではこれで、と渡部はBと書かれたボトルを取り出し、グラスに注いだ。
素面では聞けない話に、俺もグラスを煽ると、身体中が熱くなる。
「嗜んで飲めよ」
手遅れな
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