第32話 言葉の彫琢/須賀敦子『イタリアの詩人たち/ウンベルト・サバ詩集ほか』
あまり人に言わない読書もある。言えない、ではない。言ってみても興味を惹くことがまずない、ゆえに言わなくなった類の本。それは何か。海外の詩集だ。
詩は読者数そのものが少ない。ましてや翻訳となると。極めて重要な名前でも、本自体が入手困難なことは珍しくない。パウル・ツェランやフェルナンド・ペソアと言った、20世紀の代表的詩人でさえ一時期絶版だったのだから。
ただその代わり、静かに本を読める。喧騒とは無縁の読書、当世では貴重なものだろう。
本書は全集の第5巻、詩論と訳詩を収めたものだ。海外詩の、それも文庫となると二重に貴重という事になる。近年、岩波文庫が力を入れるまではイタリア詩の紹介本を兼ねてもいた。
詩は訳者の腕が出る。最低限、二カ国の言語に堪能である必要があるからだ。多くの場合、歴史的背景も踏まえる必要がある。その点、須賀敦子の訳業は申し分ない。
知名度ではウンベルト・サバが有名だが、個人的にはジュゼッペ・ウンガレッティに惹かれてよく読み返している。申し分ない、と述べた意も伝わるはずだ。
摘みとった花と 貰った花との
あいだには 言いあらわせぬ 無が
『永遠』
すぐまた
旅に出る
難破に
生き残った
老水夫
のように
『難破の愉しさ』
密かな楽しみとしての、静かな読書。
ひとり満ち足りた気分になりたいなら、本書を手に取ってみるといい。
追記:
資料の読み返し等が時間的に厳しくなって来たため、今回でいったん〆にすることにしました。今までお読み頂きありがとうございました。以降については不定期更新となります。
800字の本棚 祭谷 一斗 @maturiyaitto
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