戦国時代の女性たち

戦国時代の武家の女性の経済事情

 磯田道史氏の著書である『武士の家計簿』によると、幕末期の武家の女性は実家から「お小遣い」を貰っていたそうです。


 戦国時代に於いても、武家の女性は実家から手許金を貰っていました。勿論現物ではなく所領を貰い、そこからの利益になります。基本的にその領地の相続権はなく、一代限りになるようです。


それは大名家に於いても同じで、実家と他の家に嫁に行く娘の関係は、一生途切れることなく、連絡用の馬の無料使用を許可している文書から見ても、定期的にやり取りをしている様子が見て取れます。

これは当時、婚姻関係を結ぶというのは、相手の家に入る娘が一種の「取次」の役目を果たしていたからです。


 信長公のうつけ時代の話で、道三と信長公が美濃で会見を持ちますが、それの下地というのは、道三娘である鷺山殿が織田家の実情を斉藤家尾張出張所長として知らせ、また反対に斉藤道三の意向を信長公に取り次いでいる訳です。

正室は2人きりではありませんが、直接殿と話ができますから、間に他の人の思惑が入りません。

ただし、鷺山殿と道三の間には、道三の近習の取次(小指南)が入ります。

また同時に道三の側室に入った信長公の姉妹の織田氏娘は、尾張の領地を持ったまま美濃へ嫁ぎ、斉藤家の様子を信長公に近習の取次経由で知らせ、信長公の意向を道三に伝えます。

こういうことがあるので婚姻は「両家の架け橋」と称しますし、また敵対していた家同士では、重縁で婚姻関係を結び、齟齬がないよう努めます。

ですから、彼女たちに渡される所領は、給料の意味合いがありました。


 では婿養子の場合はどうだったでしょうか。

戦国時代では、家督相続は基本的に男系です。嫡男と呼ばれる人が家督と給地を相続します。嫡男がいなくなった場合、腹違いの兄弟が継ぎます。ところが、この兄弟がいない場合、給地自体は娘が継ぐことが認められています。

例えば息子が討死し、給地は孫娘、家督は孫娘の婿養子が相続した記録が、天文22年(1553)の毛利家をはじめ何例も残っています。


 つまり、信長公の乳兄弟の池田恒興の家というのは、家督は婿養子のお父さんの池田恒利が継いでいますが、池田家の給地は、家付娘のお母さんの大乳ちの方が相続をしています。

お父さんの方は、実家である滝川家と池田家から手許金として、一代限の御差料を貰っている訳です。

その後、恒興が跡目を継ぐと、大乳ちの方から恒興へ給地が譲られます。

そうなると恒興(の賄い役の家臣、おそらく森寺藤左衛門。恒興の直轄地は恒興の小姓)がそれらを管理することになります。


ではお母さんである大乳ちの方は、恒興が跡目を継いだ後は無給になってしまったのでしょうか。


戦国時代、本城で働いている女性たちは、上から下まで皆家臣の妻子です。

このように働きに出ることで、彼女たちは給金を得ることができました。

それは大名家以外の、宿老、武将たちの城屋敷でも同じです。


その他、兄弟、甥などに子供が産まれた時に乳付けの儀式をすると言う話を、拙作でしましたが、それをしますと、その子の「後見」として、個人の知行をゲットできたそうです。


彼女たちの中で最も給金が高いのは、やはり大名の乳母だったそうです。権威としても宿老に匹敵するものがありました。他の家から乳母あてに、名指しで贈り物が届いている記録が残っています。


ということは、大乳ちの方は現当主のお差(実際に乳を飲ます人)兼乳母(教育係)ですから、織田家に関わる女性としては、トップクラスの知行を織田家から貰っていたことになります。

もし乳母でなく、働きに出ていなかったとすれば、池田家から隠居料、化粧料として知行を、恒興から頂くことになります。


 また旦那様が討死して、奥様が実家に帰らず、婚家を支えるということがあります。

そうした時には、旦那様の殿より頂いてた知行は打ち切りにならず、嫡男が元服するまで奥様が引き継ぐことになっていました。

もっとも、これが病死で有るとか、個人の事情で亡くなった場合はまた違うようですが、一種の労災みたいなものですね。


またなんらかの原因で家が断絶し、妻が連座しないことがあります。そうした時、妻が役職を持っていた場合、その役分の給地を子供に継がせて家を立てたという記録が毛利家に残っています。



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