戦国時代の遊び、春

 季節は春に向かい、活気に満ちていきます。

戦国期の人、特にこども達は、この季節にはどのような遊びをしていたのでしょう。


⭐︎すまい草(相撲草)


野原には草花の芽が芽吹き、茎を伸ばしていきます。

そうなると、子供達は「すまい草」を摘んで、茎を交わせてひっぱりあいを始めます。


このすまい草、「すもう草」は春は「すみれ」、それから「おおばこ」、夏が近づけば「おぐるま」、夏から秋に向かう頃からは「おひしば」と「めひしば」と移り変わっていきました。

どれも日当たりのよい原野に生えるそうで、子どもたちにとっては手近な遊び道具だったでしょうね。


⭐︎草合わせ、花合わせ


平安期、宮中の遊びであった華合わせ、貝合わせなどの「物合わせ」も庶民の遊びになっていきました。

特に盛んにされていたのが、草合わせ、花合わせで、春には一斉に草花が芽吹くことから、春先によく行われていたようです。


ただ大きい、立派だというのではなく、様々なテーマ、お題を決めて、それに合った草花を出して優劣を決める遊びです。


三月になると、上巳の節会があります。

三月の初めの巳の日に、お祓いをし、人形ひとがたに自分の災厄を托して海や川に流す、今で言う流し雛、つまり雛の節句、雛祭りです。




5月が近くなり、端午の節句が近くなると男児の遊びが増えてきます。


彼らはチームに分かれて、リーダーの元、端午の節句当日の戦に向けて、優劣を競い合います。


以下のものは、奈良時代に遡る端午の節会の行事が、民衆化したものです。


まず端午とは、月の初午の日という意味です。

五節会のうちの端午の節会は旧暦の五月、梅雨入りの直前になります。


また当時は田植えを始める時期だったそうです。

端午の節句が民衆化していくうちに、体調を崩しやすい時期に始まる、米作りの重要で重労働な作業に、健康を祈る行事になっていったと考えられています。


 禁裏から庶民まで、どの家も軒に、邪気払いの菖蒲やよもぎを挿し、菖蒲の葉で作った薬玉を柱から吊るす「軒菖蒲飾り」、菖蒲やよもぎを浸した湯で湯浴みをする「菖蒲湯」、菖蒲やよもぎを浸した酒を飲む「菖蒲酒」、菖蒲やよもぎをまくらに入れる「菖蒲枕」など、近年まで続く風習が見られます。


そして平安期の宮中では競馬くらべうま騎射うまゆみ、毱打など様々な競技が、悪鬼を退散させる為に執り行われました。


競馬は「竹馬」、騎射は「小弓」へと子供の遊びとして大衆化されていきます。

毱打は前回の通り、正月の行事になりました。


また鎌倉期に入り武士の時代になると、梅雨入り直前のこの時期に、晴れ間を見て鎧兜を虫干ししたことが、時代がくだるにつれ儀式めいたものになり、端午の節句に鎧兜を飾るようになったそうです。


⭐︎竹馬

竹馬は、笹竹に綱をかけて跨って走り、速さを競い合いました。

これを「竹馬馳たけうまはしり」と呼ぶそうです。


現物を拝見したことが無いのですが、『桂宮本忠見集』(960年)に既に「たけうま」に関する記述があるそうです。


南北朝時代の『暮帰絵詞』に、竹馬に跨って走る童子たちの姿が残されています。

笹竹にまたがり、笹の葉を引き摺りながら、はしりまわる男児たちはとても元気そうです。


それが室町期を迎えると、二本足の竹馬になったとされていますが、魔女のホウキ式からあの二本足の竹馬への進化は唐突で、またがる系のたけうまも江戸期まで存在していることから、同じ名称で、違うものだったのではないかとも思えます。


その二本足の竹馬は、室町期の大道芸人によって、全国に広まったとされています。

輪鼓りゅうごや手玉など、宮中の遊びが広まったのは、彼らの影響かもしれませんね。


⭐︎小弓(雀小弓)

的当ての遊びです。

平安期にも室内で座ったまま行う「小弓」がありました。名前は一緒ですね。


小さな弓矢で、吊るした的に当てる射的の遊戯で、端午の節句前に前哨戦として、よく行われたと言います。



⭐︎印地いむち打(石合戦)

竹馬馳、小弓同様、元々は端午の節句の節会の前哨戦としてされていましたが、段々と関係なく、独立した遊びになっていきます。 


印地打は、当時、大人も子供も夢中になった遊びですが、起源がはっきりしません。

中世末期では「礫打ずんばい」とも呼ばれる石礫を投げ合う……なかなか過激な戦さ遊びです。


それぞれのチームのリーダーは傾奇いた派手な衣装をまとい、兵法に基づいて兵を動かし、あちこちで石を投げ合って戦います。

何しろ石なので、死者、負傷者が出る危険な遊びで、平安の昔から、下の菖蒲切りや菖蒲打ちを推奨していたそうです……が、どうにもこうにも、止むことはなく、戦国大名の皆様も嬉々として印地打に励んでいたそうです。


この印地打は「印地党」という無頼な集団を生み出しました。

室町期の祇園祭の時に死傷者のでる「大戦」になった記録も残っています。


⭐︎菖蒲切り

菖蒲を刀に見立てて、争ういわゆるチャンバラごっこです。

石の代わりにこれを持たせるように、親は頑張ったそうです。


⭐︎菖蒲打ち

菖蒲を束ねて、地面に叩きつけて、音の大きさを競う遊びです。


この二つが端午の節句、当日の遊びになっていたようです。


端午の節句が終わると、季節は夏に向かいます。

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