殿に呼ばれたで御座る…お召し
城中でお勤めを致していますと、殿からお呼びがかかることがあります。
この伝達は、殿の側に侍って居る小姓などのお側衆が伝えてきます。
これを「お召し」と呼びます。
お召しがかかると、速やかに殿の前に参上せねばなりません。
別の日が指定されている場合は、忘れないようにしなければいけませんね。
さて殿の前に参上しますが、身分や要件などによって、御目通りする場所が変わります。
屋敷の中に入り部屋に向かう、廊下で控える、庭で待つなど指定された所へ向かいます。
殿のおられるスペースの入り口に着くと、差していた刀は控所に預けて、腰刀の脇に要を下にして扇子を差します。
控所に詰めている馬廻の1人が、殿に「お召しになられた〇〇が、まかり越し候」と伝えて、「呼べ」とお返事を貰ってくるまでの間に、服装に乱れはないか、鼻水は出ていないかチェックし、汗が出ていれば、懐に入れておいた手拭いで拭いておき、見苦しくないようにちょちょっと袴や小袖の裾を整えておきます。
髪の毛は、刀の鞘の表側に差し込んである
これは刀を預ける前にしておかねばなりませんね。
笄は簪みたいな一本の物や、割笄と呼ばれるお箸みたいなものがあり、頭が痒い時に掻いたのではないかと言われています。
個人的な見解ですが、ひっかかったりして毛が緩んだ部分や、毛並み?毛筋というのでしょうか、それが乱れた時に、押さえて
江戸期と違い、戦国期の普通の男性の髪の毛は、普段は軽く米の研ぎ汁である「ゆする」をつけて
これは侍人生のスタート、元服の時も同じで、やはりゆするが専用の入れ物に入れられて登場します。
というのも髷を結ってもまだ固めることはしておらず、ポニテ、信長公で有名な茶筅髷、ポニテにした後一つ上に折り曲げる折髷が主流でした。
ですから、そんなもんかな?と思います。
そうして待っていると、殿の小姓や祐筆などのお側衆が、控所まで迎えに来てくれたり、先程の馬廻が「ついてこい」と案内してくれたりします。
案内に従って指定の場所まで行くと、近習が殿にお声をかけてくれます。
座敷にお招きしてもらえる場合も、一旦廊下の入り口の少し離れたところに控えて、入るように言われるのを待ちます。
「〇〇罷り越し候」と小姓だったり、祐筆だったり、馬廻の近習だったりが殿に声をかけてくれ、殿が「入れ」と言われたら、まずは座敷の出入り口まで進みます。
そこで一旦、腰を降ろして
これは、「確かに呼んだ〇〇や」と、向こうが顔を見て確認するわけですね。
それからおもむろに、まずは両手を敷居の中につきます。つきましたら、ヨイショと敷居を越えます。跳び箱か?
この辺りは、現代でも茶道の作法の「席入り」「にじり」に少し残っていますね。
襖を開けると、扇子を前において一礼してから、右手に扇子を握り、にじって茶室内に入ります。
にじり方は、親指以外の両手を指を軽く握って、第二関節と第三関節の間のところを親指を前にして、体の前方の床につけます。それから両腕に力を入れて、体を引き寄せて前進します。
中に入ったら、握っていた扇子を前に置いて、殿の方を向いてまた頭を下げます。
そこから扇子を腰紐に戻して、
すると殿が要件を伝えてきますが、ここで重要なのは、殿の顔を見ないことです。
現代では、ソッポを向いてますと、「どこを見ているんだ!」「人の顔を見ろ!」と怒られたりしますが、当時では「こっちをみんな!」と叱られるわけです。
少し横を向いて、
これは何でかと言いますと、殿たちから見て、その人の顔立ちがよく見えるからだそうです。
それから、返事をしたり、こちらから要件を申し伝えるなど、こちらから殿や側近の方に申し上げる場面があります。
この場合は、まず先ほど腰紐に差し直した扇子を取り出して、自分の前に置きます。
視線は声をかける相手の方の腰の刀の
もし誰かに連れられて、殿の前に出てきたときには、直答せず、そっちの方向を向いて話をします。
殿「名前は何て言うの?」
本人「介添さんへ、私の名前は新入太郎と申します」
介添(知ってた)
こんな感じですかね。
お話が終わりますと、殿に向かって一礼をして扇子を軽く握って、入ってきた襖まで膝行で戻り、またそこで扇子を置いて一礼をした後、敷居を踏まないように腕を使ってヨイショと廊下に戻るわけですね。
扇子大活躍です。
基本的に、殿に危害を加えられないように、相手の顔は皆よく確認し、殿の顔を安易に覚えられないように、殿の安全を重視した作法になっているのが注目点です。
戦の陣の組み方、城の作りに通じる部分で、家の格は、家についているのではなく、主人の功績によって上下する、戦国期の個人主義から発した作法ですね。
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