戦国時代のウエイター(お茶編)

 今回は『今川大双紙』『中世武家の作法』をメインに、客人が来られた時の、お茶のお運び、現代でいうウエイターを見ていきたいと思います。


殿が振舞を開く時、その給仕をするのは若い馬廻の仕事でした。

若いというのが何歳くらいのことを言うのか、ハッキリと書かれたものが発見できていませんので定かではありませんが、一応武将は二十歳を持って一人前と言われるので、その辺り前後が目安かなと思います。


この頃の振舞というのは、なかなか肩が凝るもので、膳を受け取るまでは片膝を立て、受け取ったら胡座あぐらにするなど客人としても礼儀、礼法を覚えるのが大変そうなものでした。

とは言うものの、残っている絵図を見ると、胡座じゃない人もいて、格式と宴会の時間の経過によって変わっていたと思われます。


ま、生活ですものね。そんなもんでしょう。


当時のお茶の作法、茶礼は、お寺系と武家系に分かれています。

武家が屋敷内でお茶を進ぜる時と、武家でも法要や禅寺での闘茶などを行う時の茶礼は違い、今回は殿が自らの屋敷で、お茶を客人に飲んで頂く時の馬廻のお仕事についてになります。


ご存知のように当時のお茶は、お茶の葉を臼で挽いて、粉にしたものに湯を注いで掻き回して「お茶」にします。


まずこの過程が二つに分かれています。


台盤所、もしくは隣接した部屋で、同朋衆(僧体の近習)が茶碗にお茶の粉を定量入れていきます。

それを盤に乗せて、客のいる近くの部屋に運びます。


それを馬廻の彼らが受け取り、運ばれてきた湯瓶とうびん(やかん)!でお湯を注ぎ、茶筅で搔き回します。

因みに、やかんを運ぶときには、口には茶筅を挿しておきます笑


お茶が点てられると、台に乗せた茶碗を客の前に持っていきます。


まず持って行く時には、右手で茶を乗せた台を、左手で茶碗と台との両方を持ちます。この時少し体の前に差し出す形で持つように言われています。

両手で台を持つと危ないので、必ず左手は茶碗と台の両方を持つようにと忠告されています。


いざ客人の前に座って茶を据えると、後ろに下がり、後に立ち上がります。

飲み終えたお茶を下げる場合は、客の前に進み出ると、まず左手を台と茶碗にかけ、右の手を茶碗に添えて立ち上がるそうです。


 使われる茶碗は、天目、建盞けんさんなどが古来より正式とされていましたが、千利休の台頭と共に変わっていきます。

しかし、正式には基本的にこうしたものが使われていたのではないかと思います。


客人に茶を出す時の姿勢というのは、当時当たり前すぎたのか書かれていません。

しかし基本的に武家が両膝をつくというのは作法上あり得ないので、この頃の股関節と足首の柔らかさを発揮して、腰をおろしてからは合気道でいう膝行で進み、片方の膝は立て、もう片方の踵に腰を降ろす片跪坐だったのかなと思います。(拙作「戦国の基本姿勢」、「戦国時代の座り方、おかわり」をご覧下さい)


 こうした場合の馬廻の心得が書かれているのですが、非常に面白いのでご紹介したいと思います。


まず手足を浄めますが、彩りをしてはいけないそうです。彩りというのは、白粉を叩いたり、白塗りをしたりでしょうか。ダメと言われているからにはした人がいるのでしょうから、なかなかオシャレなことです。


手足は洗いますが、その後濡らしっぱなしは良くありません。

きちんと拭きあげて、乾いた状態にしておきます。


また新しい手拭てのぐい、鼻紙をあらかじめ別に用意しておきます。


いざお茶を点てたり、給仕をしたりする段になれば、「めくそとらず、顔なでず、鼻すすらず、手足をいらわず、指ぬらしちりとらず」(『烏鼠集』)、「茶点つる間鼻かまず」(同)、「汗はぬぐわず」(『宗五大草子』)、しかしどうしようもない時には、そっと外を向いて別に取り置いていた鼻紙や手拭を使うと良いらしいです。


万事無言で慇懃にしておくのが、戦国時代のウエイターの心得だったようです。


こうして若いうちから、茶や御膳を運ぶことで、客人の顔を覚えたり、作法を覚えたりして、立派な武将になっていったのでしょうね。










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