戦国期の死

戦国時代の死生観

 人は一度、この世に生を受ければ、必ず死を迎えます。


戦国当時の死に対する考え方は現在とは全く違い、私達が考えるよりも生き方に強い影響を与えるものでした。


これは当時の人々の行動を理解する上で、非常に重要なポイントの一つです。


 当時「死」というものは身近なものであり、死後自分はどうなるのかというのは、とても関心の高い問題でした。


「亡くなると魂になり、あの世へお引越しをする」と考える当時では、阿鼻叫喚な地獄(スラム街)ではなく、極楽浄土(タワマン最上階など)に行きたいなぁと願うのは、理解できる心情ではないでしょうか。


 さて仏教では、生前より来世のために「死の用意」をすることが、重要であると説かれています。


「死の用意」とは、いかに死ぬかということです。

それは「死にざま」というフンワリとした情緒的、抽象的なものではなく、まさに自分が死の間際に、どういう状況で、どういう心持ちになるかという具体的なことへの準備です。


というのも「一念三千」と言いますが、心は波長同通の法則によって、あの世にある三千世界のいずれかに通じます。

そして最期に通じた世界に還ると言われていましたから、日頃から最期を想定して、仏の悟りを習得する努力をし、善行を積むことが大事でした。



 当時の人々が無事に極楽浄土に渡る為に、普段から持つべき「三願」と呼ばれるものがあります。


この三願は「臨終行儀の発願ほつがん」とも言います。

臨終行儀とは、亡くなる人とそれを看取る人の両者が力を合わせて、極楽浄土への往生を目指す仏教的な作法のことです。


 まず「発菩提心願」は、菩提心を持っていたいとする願いです。

菩提心とは仏のようになりたい、仏の智慧を得たいと願う心です。

それは生きながらにして菩薩の心境になるとかではなく、「死ぬ時の心持ちが菩薩である」が明確な目標です。


 2番目は「善知識」に親近することです。

善知識とは、仏道、悟りにいざなってくれる僧侶のことです。


時宗の僧侶は、戦国当時「臨命終時りんみょうじゅうじ衆」と呼ばれていました。「臨命終時」とは臨終の正式名称ですね。


彼らは御伽衆、或いは御側衆として常に殿の側近く侍っており、また陣僧として参陣し、兵士たちの臨終に立ち会い、引導を渡しました。


彼らの存在は兵士たちにとって、たとえ戦さ場で命運尽きようとも、極楽浄土に渡る保証でした。

ですから殿は、彼らを配備しておくことが大切な福利厚生でした。


 3番目は「臨終微苦安住」です。

文字通り安らかな死を迎えること、当時でいう安楽死できることです。


安楽死というと、現代では厳しい病状の方が、人としての尊厳を持って死を迎える選択をすることを言いますが、戦国期に於いては、極楽浄土に速やかに移行できるような死の訪れを指します。


この安楽死というのを当時の人は最重要視しており、菩提心を持つことも、善知識に親近することも、結局は安楽死する為と言えます。


また生前から殿は安楽死をする為に、布施、写経、堂塔建立、追善供養などの宗教的作善を行うとともに、橋を架けたり、道を作ったり、社会的な作善を行うことが重要とされていました。


あらかじめそういった善行を積む習慣があれば、善根が堅固になり、死に際して百苦起こっても、悪想念が湧きおこらず、仏を心に想起する事ができるそうです。


でも戦なんてしてたらダメなんじゃと思いますが、戦国期の戦争は(現代もかもしれませんが)領民を護り、領国を護る戦いという、ハリポタの「より大きな善のために」みたいな感じなので、大丈夫なのでしょう。


 庶民の皆様は、殿のように大掛かりなことが出来なくても、貧者の一灯のように、僅かであろうとも心を込めて布施をしたり、法話を熱心に聞きに行ったり、作務をしたり、できることをし、天道にもとらない生活を送ることが大切でありました。


こうしたことを日常的にすることで、いざという時の安楽死が約束されます。

何事も付け焼き刃ではいけませんね。


このように当時は、臨終の時を安らかに迎え、速やかに極楽浄土に渡ることを日々の目標において、生きていたということです。


しかしどの程度努力すれば、安楽死できるのか、なかなか分からないことでありましたから、死に際して様々な儀式が用意されていました。


次回は具体的な臨終場面を見て、その儀式を確認していきたいと思います。


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