乱世の終焉
戦国の話でなくて御免なさい。
戦国期の終焉、元和二年(1616)正月の話です。
大阪合戦と当時呼ばれた大坂の陣で豊臣家が滅亡した翌年、最初の正月のことです。
「徳川実紀」に拠ると「当家歴世の永式と為すべし」と規定された儀礼が始まりました。
その細かさと言ったら、グウタラな麒麟屋などは怖気を振るうほどの息苦しさです。
ドレスコードですが、「武家装束着用図」というのがネットでも見れますので、そちらで確認していただければと思います。(無料DL、商業利用もオッケです)
侍従以上は
四品は
諸大夫は
諸役人は
平侍は
将軍への拝謁する順番、場所、座る畳の位置、取次、献上する物や下賜される物の方法などこの時に定められました。
この年の様子の一部、「江戸幕府将軍拝謁儀礼と大名の格式」(二木健一氏著)を参考に見ていきたいと思います。
さて、元和二年の元旦、天下人家康公に年頭の拝謁を最初に許されるのは世子である秀忠公(二代将軍)であったのはもちろんのことでした。そして続いて秀忠次男、忠長(この時十才で国千代、あるいは国松)。お兄ちゃんの三代目将軍家光くんはどこへ?
白書院で待っている面々を上座から見ていきます。
家康の九男尾張徳川氏義直(参議従三位中将)
十男駿河徳川氏頼宣(参議従三位中将、のちの紀伊徳川氏)
十一男水戸徳川氏頼房(従四位下少将)
家康次男結城秀康嫡男松平忠直(正室が秀忠三女、従三位中将)
それから、一門衆の譜代大名として
結城秀康次男松平忠昌
同三男松平直政
家康の異父弟である久松康元こと賜姓松平康元の嫡男松平忠良
同じく異父弟、松平定勝。
そのほか、酒井、土井などの股肱の家臣団が同じく白書院で拝謁する栄誉を受けました。
その次の間では小姓衆。
大広間では、家康や秀忠を支えてきた御家来衆、譜代大名、三千石以上の外様の大名たちが挨拶をしました。
二日目になると、大広間に侍従以上の大名たちが集まりました。
信長公乳兄弟で、長久手の戦いで家康軍に討たれた池田恒興の孫で家康の孫にも当たる、備前藩主池田忠雄。
秀吉の正室寧々の妹ややの子で家康の三女を正室に頂く紀伊藩主、浅野長晟
信長公の寵臣森可成の末息子で、森乱丸の弟、美作藩主森忠政
秀吉の股肱の臣蜂須賀小六の孫で、信長公側室生駒の方の兄の娘を母とし、家康養女を正室に頂いた阿波藩主蜂須賀至鎮
それから細川忠興、京極忠高などが名を連ねています。
三日目は無官の大名たちが集まられました。
この中で前田利家の子孫、池田恒興の子孫が初日の白書院の間のメンバーに入っているのはなかなか目を引きます。
前田利家の四男(側室生)前田利常 加賀藩主、二代将軍秀忠の娘が正室
池田恒興の次男 池田輝政 播磨藩主、継室は家康の次女
この二名の大名は、一門衆の譜代大名よりも上、尾張、駿河(後の紀伊)、水戸の御三家と結城秀康の嫡男の後に付けています。
利家も恒興も、確かに息子達は徳川軍に付きましたが、本人たちは決して家康公に御味方した訳ではありません。
他の武将たちは豊臣家から徳川家へ、大阪合戦以前に転仕したものとています。
しかし、この二人の子孫を安堵することは、天下を取ったとはいえ、まだ脆弱だった江戸幕府の体制を支える為に大切なことだったのだろうなと推察できます。
2日目のメンバーでも、森可成の末息子は家康、秀忠の娘を頂いていませんが、ここに入っています。
彼の次兄長可は偏諱を賜り鬼武蔵と言う二つ名を持ち、信長公のお気に入りで有名な青年武将でした。また池田恒興の娘婿で、恒興と共に長久手で折り重なるように亡くなったと言われています。
乱丸こと成利も、坊丸こと長隆も、力丸こと長氏も本能寺で主君と共に亡くなりました。六人の男児のうち、五人まで失った森家がここに入っているのは嬉しいことです。
また丹羽長秀の息子長重は、西軍として敗軍の将となりましたが、秀忠に御伽衆として出仕を勧められます。他の御伽衆仲間は細川忠興の弟や佐久間一族の佐久間安政(母親は柴田勝家の妹)など徳川軍に汲みしていたもの達でした。
長重はその後白河藩の藩主に出世し、信長公の5女との間に出来た光重が跡目を取ります。
こうして見ると、あの世で信長公が笑っているような気がしませんか?
信長公が滅して約三十四年、しかしまだその力は消えず、忠臣達を護っていたのではないかと考えたいなと思います。
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