城で働く人々とそのお住まい

 今回は普段城でお仕事をしている人たちを、ザックリと整理しておきます。

これは大名家も武将家も、あまり変わりがありません。


 まず主人である殿のそば近くで吏僚的な仕事をしている男性は、「御側衆」、「お身内衆」と呼ばれる近習たちです。これは以前まとめました。

小姓、祐筆、一部の馬廻、殿のコレクションを管理している僧たちもいます。僧侶は祐筆や軍師をしていることもあります。

彼らの仕事は、取次の小指南と呼ばれるもので、武将や余所の家の人たちからの手紙を殿にお知らせし、返信を書いたりします。奉行としてさまざまなことを執り仕切ることもあります。

また殿の身の回りの世話やスケジュール管理、話し相手、鷹狩や将棋、能楽などにつきあったりします。


彼らは僧侶を含めて次男以下の方が多く、上のクラスの方々では殿の住まう城の二廓あたりに屋敷を拝領しています。また屋敷を持たず、殿の住んでいる実城(主郭)の中奥辺りや専用の建物に住んでいる人たちも多くいます。特に小姓たちは見習い期間から、本城の奥に住んでいます。


武将たちの御側衆たちも同じように、彼らの殿が住んでいる屋敷や城の本城(主郭)にいます。居住地もその屋敷や城の規模にもよりますが、家老職の屋敷が殿の屋敷のそばに配される江戸時代とは違い、御側衆の屋敷が殿の住む場所を護るようにして置かれているのが、戦国時代の特徴です。

以下で触れる重臣たち(一つの部隊を任されるような家臣)は、本城の外に屋敷を構えています。中には城持ちの家臣たちもいますが、一応殿の城の城下町に屋敷は拝領してはいます。


 それとは別に殿のそば近くには、「小者」と呼ばれる方たちもいます。彼らは領地に住む庶民で、武家ではありません。

身体は頑強で、非常に気の利いた信頼できる人物になります。

小者の普段の仕事は、小姓などの近習では行き届かない、細やかな仕事になります。

例えば戦国時代になってくると、文書のやりとりの重要性と危険度が高まっていきます。小者たちは殿から直接「意」を伝えられ、手紙を持って走ります。そして相手方に口頭で主人の「意」を伝え、手紙には書けない事柄を聞いて戻ってきます。

主人の手や目、耳として活動をする人たちで、中には武家に取り立てられ、近習になった方も居られます。


彼らは先輩の小者から推薦で出仕することもありますが、人として優れ、素養や教養が求められることから、勉学の為に入らされる寺からの推薦もあったのではないかと考えられます。

彼らの居住地についての資料はないのですが、仕事柄、主郭あたりの小屋や、裏手の房に住んでいたかもしれませんね。


 殿や殿の家族の側にいる上級侍女たちは、宿老級の重臣家の妻か娘です。

侍女たちも身分によって、住む場所が変わるのも男性と同じです。


中級クラスの侍女は、中級クラスの武将の妻女で、下級クラスの侍女は下級武士の妻女。そして領地から出てきた、庶民の下女、下働きの女がいます。


夫や父親の拝領屋敷から通われていた方もおられる方もおられたでしょうし、中奥、奥近くに、専用のアパートのような建物や渡り廊下のある棟などが確認できます。


 殿の正室は、彼女の夫が城主であれば、その城の奥に入ります。城主では無い跡目の嫡男の正室なら、屋敷を新たに建ててもらうか、リフォームしてもらってその屋敷の奥に入ります。

跡目ではない男児の正室なら、彼の屋敷の奥に入ります。それらは、城下町の宿老たちの屋敷群の中にあるでしょう。


側室ならば、嫁ぎ先の規模によっても違いますが、殿の城の別の廓に住まうこともありますし、奥の正室とは別の棟に住まうこともあります。


 その御内室様の側にいるのは、侍女たちです。

乳母たち、乳姉妹、実家から連れてきた侍女、それから殿の家の上級侍女たちが侍っていました。

また御内室様には、実家から連れてきた男性の近習や小者、あしがるたちもいます。

近習たちは、ご実家の規模によって違いますが、大名クラスの輿入れであれば、近習自身の小姓や馬廻、祐筆などの御側衆、小者、あしがるを連れています。

基本的に正室として嫁ぐ場合はお屋敷を新築して貰いますので、近くにお屋敷を建ててくれることもありますし、既にある屋敷に入る場合もあります。


城持ちの武将家に嫁いだ場合も大名クラスの輿入れと似たり寄ったりです。


彼らは御内室様の為の家臣群で、殿の家臣ではありません。彼らは殿の家の基本的に譜代の家臣と通婚することが多く、また既婚であれば、彼らの子供が殿の家の家臣と婚姻します。

御内室様に子供ができれば、その子の家臣につけられたりして、御内室様が亡くなるまで、少しずつ殿の家に混じっていきます。

また御内室様が亡くなった後、出家や隠居して、主人の家に戻る人もおられます。


 馬廻の中で吏僚的な仕事をしていない人たちは、警備の仕事をしています。

彼らの中でも身分の上下があり、その立場によって詰める場所が異なります。一番上の立場では、殿のプライベートゾーンや御内室様やご家族の方々、または執務室の近くの遠侍になります。

不寝番もありますので、ローテーションが組まれていたのではないかと思われます。


彼らは大名家や主人が城持ちであれば、拝領屋敷、ご本人が小身ならば本城の外の城下町の小さな屋敷や長屋に住んでいます。

主人が城持ちではない小身の武将家ならば、同じ敷地、屋敷の一角に住んでいたと思われます。


 城には「奉行」と呼ばれる役職があります。

「台所賄い」と呼ばれるのは、城全体の経理をしている譜代宿老です。彼の下には、計算が得意な中級武士が控えていて、各所から上がってくる収支決算をしています。給料を計算したり、取りに来るように連絡をするのもこちらの役目です。

基本的に城のアレコレをする彼らは、殿の本城の拝領屋敷に住んでいる家臣たちが賄っています。


 台所で調理をしているのは、「包丁」と呼ばれる武家です。基本的に譜代の宿老格の身分の高い武家が監督役の奉行を務めています。

その下で働くのは、寺で修行時代に調理に興味を持った武士で構成されています。殿たちの口に入るものですから、基本的に譜代の武家の役になります。

殿の食事を作るのは、その中でも身分の高い家の武士になります。

天下人になった信長公が、専門の調理人に料理を作らせた話が遺っていますが、普通の大名家では、安全面からも譜代の宿老の監督下で譜代の中堅の家臣が作るのが普通でした。

とはいうものの、戦国時代は家臣の謀反により殿の毒殺が多いですよね。


領地から出てきている庶民の下男や下女は野菜を洗ったり、食材の運搬することはありましたが、調理をすることはありませんでした。

彼らは台所近辺にある出入口(虎口)を使います。そこからは、同じ主郭であっても中奥や表などには行くことはできません。


大名家、中級まで武将家では、基本的に火災予防のためにでしょうか、台所は別棟で建っていることが多く、また屋敷が大きくなれば複数の台所が確認できます。

特に宴会をする会所を持っている家では、会所の裏手にも台所があります。


出来上がった食べ物は、武士の手によって鍋や釜ごと、城屋敷の中に運び込まれます。この受け渡しをするのが、御側衆の僧侶たちのことが多かったようです。

受け取ったものは、それぞれの区画にある台盤所に運ばれます。

この頃は身分によって使う折敷、置かれる皿、そして品数は変わりましたから、そういうことを万事飲み込んでいる御側衆が温め直したりしつつ、小分けしていきました。


出来上がった膳を運ぶのは、基本的に馬廻の仕事でした。


 台所は廓や屋敷ごとに付いていることが多く、御内室様たちが別の廓や屋敷に住んでいる場合は、またそれぞれに包丁が腕をふるいます。

同じ台所で作っても、御内室様たちの部屋の近くには別に台盤所があることもあり、お食事を殿やほかの室の方と共にすることは、少なかったのかも知れませんね。


 城にはさまざまな蔵が建っています。

二廓、三廓には武器庫や戦に使うさまざまな道具を納めた蔵が建っています。また主郭には食糧や炭や薪を納めた蔵があります。また厩もありますね。

こうした物を管理するのは、宿老級の武将たち、重臣と呼ばれる方々で「◯◯奉行」と呼ばれます。

秀吉もしたと言われる薪炭奉行は有名ですね。

厩の奉行もおられますし、作事奉行、普請奉行などもおられます。

彼らは必要な物を購入したり、不要な物を売り払ったりします。

これらの下に中級武士、あしがるなどがついていますし、家臣の納入業者もおられます。


またそれに携わる職人たちも城下町に住んでいます。

城下町に住む商家は、保護をしてもらうかわりに、革職人なら革製品を、塩屋は塩などを税金として納入します。

戦となれば、彼らの家族は二廓あたりに入ったり、留守居の武将と共に戦闘準備を整えます。


現代でも有名な清水建設は、織田信長公の作事奉行だったと言われていますし、デパートの松坂屋は同じく織田家の家臣伊東蘭丸が始祖になります。


その他、領民たちも訴え出ることができる裁判所もあります。

現代と同じで、地元の采配をしている武家に訴え出て、それでも解決つかないことは、上へ、上へと送られていきます。

武家にとって、領民たちは収入源であり、戦に参加してくれる重要な人材でした。ですので戦国時代では、湊町以外ではわりと貧しいのは事実ですが、蔑ろにされている訳ではありませんでした。


基本的にどの奉行も重臣クラスの家臣がなり、その下に中級や下級の武家が配属され、細々としたことは小者達がこなしていました。


戦の訓練もありますし、なかなかお忙しい1日を過ごしていたことでしょうね。

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