戦へ参る①(加筆)

戦をすると決まると、 軍師は加持祈祷したり、軍神に祈りを捧げたりの戦勝祈願を執り行います。

戦国末期には戦勝祈願連歌会が流行りで、2日とか掛けて行い、歌をお金と共に奉納しました。


あの本能寺の変の前に、明智光秀が愛宕山で連歌会を開き

「ときはいまぁ~~~」

と、天下とっちゃると宣言する歌を唄ったとか、唄わなかったとかいうのは、対毛利戦の戦勝祈願ですね。


その戦勝祈願をしてた時に、その愛宕神社に織田家当主織田信忠公が、対武田戦の戦勝祈願のお礼参りに行って、多額のお金を奉納しています。


奉納が恙無く終わると、吉凶を占ったり、くじ引きをして、出陣する日にち、時間や方角を決めたと言います。

軍師任せにせず、自ら吉凶を占った殿もおられます。



戦の日が決まると出陣の3日前から精進潔斎します。

女性を遠ざけ、妊婦、産婦は着物や持ち物にも触らせません。

肉食はやめて、精進料理を食べます。

そして、水垢離をしたり、気を高めていきます。


出陣する前には甲冑を用意しておいておきますが、北向きに置くのは厳禁です。

基本南か東にむけます。

これは陣中でも同じで、よく方角を確認しないと主人によっては斬り殺される恐れがあります。(信長公は気にしなかったそうですが)


戦では、こうした験担ぎが多いので注意したいですね。


また、陣触れと呼ばれる狼煙が焚かれ、近隣の領地から足軽くんや小者くんに来てもらいます。


更に当日になると、家中によって違いますが太鼓、鉦が打ち鳴らされます。法螺貝の場合もあるそうです。

太鼓や鉦は、素早く打たれるパターンが多かったそうです。

これは、第一声で戦準備の為に手を止めよ。

第二声で戦支度を始めよ。

などと決められていたそうです。



戦支度は、髻をきって、化粧をします。

基本的に月代は毛を1本ずつ、木製の毛抜きで抜きました。

血だらけになったそうですよ。

余程不愉快だったようで、お坊さんが使用している剃刀を信長公が手に入れて、使用するようになり、そこから武家に広まりました。

剃るのは勿論小姓くんたちです。


この月代は前日くらいにしてないと大変そうですね。


それから着物を脱ぎ、褌を戦褌と呼ばれる長い腹のところが二重になったものをつけます。冬場は唐辛子をすりおろしたものを身体に塗り、二重になった部分にもぐさをいれたそうです。

床に垂らした褌を左足でまたいで、締めます。

それから股のところが空いた裁っ着け袴。

馬に乗る人はなめし革か、なめし革が股に貼られた裁っ着け袴を履きます。

これも左足から。

それから、着物を着、具足、鎧などを付けていきます。

最後に鎧の上帯の端を、切り落とし、決死の覚悟であることを示します。

それから、湯漬けなどのご飯を最後にかきこみ、得物を持って飛び出します。



 総大将は当日、まず行水をなされ、南を向いて褌(下帯)を着けてもらい、白い肌着(帷子)を着せてもらいます。


その後着物を着て、鎧などを着けてもらいます。


それが終わると主殿に移ります。


東、あるいは南向きに置いた床几しょうぎという椅子、或いは敷物が用意され、そこに座った殿は「三献の儀」をなされます。


またその頃、家臣たちは中門前に勢ぞろいし、やはり南向きで簡単な三献の儀をしたと言います。


よく使われた肴が鰹で、これは「この戦に勝つうを」という北条氏の礼法から来ているという説もあります。


 さて主殿の殿は、目の前に「打ちあわび、勝栗、昆布」(打ち勝って喜ぶ)の三つの肴がそれぞれ土師器に乗せられ、杯が三つ重なったもの置かれた角折敷あるいは三方と呼ばれる台が運ばれます。


正面左上に、鮑を薄く切って伸ばして干した「打ち鮑」が5本、右上には殻付きの栗を20日ほど日干しをし軽く炒った後、臼で殻と渋皮を取った「勝栗」が7つ、手前の中央に今でも出汁コーナーで売っている「昆布」3本を置き、角折敷の中央に、盃が置いてあります。


酌をする家臣が進み出て、蹲踞の姿勢で長柄の銚子で酒を注ぎます。

注ぎ方は最初にちょっと注いだ後、二回、三回目は大きく注ぎます。

この注ぎ方は「そび、ばび、ばび」というそうです。

可愛いですね。

これは、ネズミのしっぽ、馬のしっぽを表しているそうです。


総大将は打ち鮑→勝栗→昆布の順番で口に運びますが、1つ肴に箸を付ける毎に3回に分けて1つの杯をあけます。


三三九度と同じ形式ですね。


でも干物をこんなに戦の前にガジガジするのは大変そうだなぁと思っていましたら、どうも完食するわけではありませんでした。


まず鮑は一本とりまして、細い方(尾)を左にしまして、広い方(頭)に向かって、末広の形になるように食べるそうです。

次に栗は一つ、召し上がります。

昆布は一本、両端は切りのけて、真ん中だけ食べるそうです。


でも干物でこれは大変では?

切りのけてって、乾燥した昆布を箸で切れるんかい?

有能な小姓くんが、小刀でカキカキと切ってくれるのでしょうか?

土師器が壊れなければいいんですけども。


一度三献の儀をやってみようと思いまして(三献の儀セットは売っています)、勝栗レシピを探していた時に、「そのまま食べるのも良いですが、熱湯に浸けて食べると食べやすいです」と書かれており、大将が食べるのだけ、戻すのもアリかなぁと思ったりしています。

少なくとも昆布は、戻しても箸では切り分けられませんし、干したままだと砕く感じでなんとも。

お湯で戻して、切れ目を入れておいて欲しい感じでした。


どう思います?


さて、全て飲み終わると、杯を叩きつけて割ります。

残った肴は一つにまとめ、取り崩すそうです。


三献の膳の肴が用意出来ない場合は、「人(を)斬れ」というので漬物を1切れ用意したそうです。

鰹をまぶすのもアリだそうです。

かつうを〜。


またこの頃、儀式で使う杯は土器かわらけだった為に、唇をしっかり湿らせてから口を付けないと、僅かな唇の水分でペッタリ貼り付いて皮が剥げてしまうという悲劇に見舞われがちでした。

戦の直前とか、同盟を結ぶ時とか、緊張する時こそ使われがちなアイテムだったため、多くの武将が不愉快な思いをしたはずです。

これに業を煮やしたのが信長公で、織田家では漆を軽く塗ったり、釉薬を使った土器を使うようになっていたそうです。



 それから、信仰する神仏に向かって必勝を祈ります。

我此敵われこのてきに打鮑、我此軍われこのいくさに勝栗、何卒我軍に勝利をもたらせ給へ」

いやいやいや、なんなのそのオヤジギャグ……(⊙ө⊙)

という感じですね。


さて、無事に神様にお願いしましたら、そこへ旗指が進み出ます。

殿は重々しく、錦の袋に入れた初期には家紋旗、のちには殿の旗印を授けます。


旗を押し頂いた旗指は妻戸よりズリズリと出て庭に降り、中門から門外に控えた兵の前に姿を表します。


いざ!頃合いやよし!


となった殿は、後ろに控えていた弓を持った小姓から、弓を受け取り、南に向かって弓のツルを一つ鳴らします。


「ボ~ン」


これは一打ち、つまり「人を討つ」ということだそうです。


これで屋敷内での出陣式が終わります。



主殿の車寄せから出て、中門へ向かった殿は、居並ぶ兵の前に立ち、ときの声を上げます。


尚この時、この門の所に柄を右にして刃を外に向けた包丁刀(短刀)が置いてあります。これを左足で超えていきます。


越えた先で、右手に扇、左手に弓を持ち

「ゑい、ぅわう」

と呼びかけると

「応」

と兵が応えます。


これを3回繰り返し、1回目より2回目、2回目より3回目、声を大きくして気を高めます。


「ゑいわう」というのは、勝利の守護神、摩利支天の幼名だそうです。

「なんで幼名なんですか?」と聞かれても、「『出陣日記』(続群書類従 第25−1 武家部)に書いてあるんです〜」としか答えられないので、ごめんなさい。


これが終わるといざ出陣です。


殿を始め、騎馬の家臣は引き出して門前に待機させておいた馬に、中門より乗ります。

馬の背が低い、低いと言われがちな和種馬ですが、一人で地面からは乗れません。

馬を中門まで引き出し、馬が左の前足を出した瞬間!に、殿は「はいよ!」と乗ります。

凄いですね。

『今川大双紙』の乗り方は、「馬に乗るで御座る」でご紹介致しましたが、殿と馬と口取りと馬を抑える人の息の合わせ方は想像以上かもしれませんね。


また総大将は南か東を向いて出なけれならないそうで、馬が嫌がったり、犬が右へ横切ると縁起が悪いとかで、城に戻りお祓いをしてからまた出陣したそうです。

そういえば、武田信玄公は最後の遠征の出立時、馬が鼻血を出したとかで、仕切り直しをしています。


後、馬がいなないたとかで仕切り直しをしたという記録もあります。


馬も粛々としないとダメなようです。


今川義元も桶狭間の戦いへ出陣のおり、馬から落ちて強かに腰を打ち付けて、急遽輿に乗って出陣しています。

不吉な兆しだとみんな思ったことでしょう。


本能寺へ安土城から発した時に、信長公の馬がなんかあったかは、記録にありませんが、色々不吉な兆しがあったとは書かれています。


験担ぎが極まっていますが、どうでしょう?


城からの奇襲はなかなか出来たもんではありません。


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