戦を回避したい大名たち・外交

戦国時代と言えば戦さ!という感じですが、回避したい…というのが本音です。

なぜなら、後の大日本帝国の軍隊とは違い、兵、食糧、武器などの戦う為の消費財は自前で調達しなければいけませんでした。

戦にも大小が有りますが、一戦のかかりは何百億という単位です。



3日分、合計9食分と燃料の薪、水(兵役中は1日3食になります)、草鞋は兵が持参しますが、その後は雇用主の大名が負担します。

勿論城に帰るまでですから、遠征するとなると相当な財政的、人的な負担がのしかかってきます。


足軽、小者は基本的にそれぞれの武将たちが領地内から、百姓の皆さんに来てもらいます。

それを統合して、足軽大将に預けて働いてもらいます。

全員無事に戻ることは少なく、そうすると村の働き手がいなくなり、畑を耕したり、魚やイノシシをとる人がいなくなってしまいます。

村が崩壊すると、困るのは大名たちです。


また自分の領地内で戦が起きると、すぐに敵は畑や田んぼ、林や森を焼きたがります。


中には城下町を焼く敵もいます。


再建は並々ならぬ努力が必要です。



そのために普段から他の大名と「取次」と呼ばれる外交担当者を決めて、贈り物をしあったり、手紙を送り合います。


手紙の中には、この度いつどこで誰と戦をして、こういう結果になったという戦報告の書状もあります。

また戦になったと聞くと、向こうから問い合わせが入ります。

負けていても、勝ってます!と報告している文書が残っています。


普通、文のやり取りをしている大名、武将同士が行なうのですが、プロバガンダの大切さを熟知していた秀吉は、手当り次第、自分の功名を付き合いの無い人へ送りまくって、「さても、さても羽柴藤吉郎とか申す男の功名心の強い事よ(図々しい)」と言われていたようです。



さて、取次はただの平和な外交官ではありません。

そこをテコに、相手の懐に入って、寝返る人材を探したり、いざ合戦!となれば、ある程度雌雄を決すると、どの辺りで手を打つか交渉をしたりする情報を収集しておかねばなりません。

腹芸の出来る人で無ければ難しい高度な仕事でありました。



また、他の有力大名との国境の小さな国主たちと、親しくしておくのも重要です。


彼らは「両属」或いは「多属」と呼ばれる立場を取っていました。

例えば、尾張と三河の国境の小さな国主は、信長公と今川義元(或いは水野)の両方と仲良くしなければ生き残りが難しい立場でした。


そのため、彼らを巡る大名たちは、彼らと婚姻関係を結んだり、彼らになにかあった時には、駆けつけて共に戦ったり、物資の支援をしたりして、何とか自分の方へ靡かせようとしなければなりません。


勿論、家臣たちに調略をかける事も忘れません。


また、自領のまわりの国主だけではありません。

敵の大名の両属や多属の国へ細作を向かわせ、煽動して敵の大名の兵力を分散させたり、いざと言う時のために味方に付けておいたりします。


信長公が上洛する時に、関ヶ原の道を斎藤義龍との敵対関係で使えなかったため、山越えをしますが、この時に六角氏の属領の国主と誼を通じていたお陰で、道案内をしてもらえました。


この方は信長公びいきだったため、最終的に六角氏に滅ぼされますが、奥様たちは信長公の元へ逃げ込まれ、側室に落ち着きます。


この様に、コミュニケーション能力が高くないとなかなか戦国時代も生き抜くのが大変そうですね。


そういえば、大名が誼を通じている両属や多属の国は1つだけではない為、あっちこっちの両属や多属の国に支援をした挙句に、自軍が自領を攻めるという間抜けな状態になったりします。信長公ですけど……


本当に大変です。

この様な努力を重ね、いわゆる「大戦おおいくさ」と呼ばれる大名同士の戦を回避し、どうしても決裂した時のみ、私たちの知る「なんちゃらの戦い」が起きるのでした。

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