第67話 可愛い小猿
「うーん。なんかなぁ、いまいち我らはパッとせんな。皇太子殿下は、トクトアをお気に入りのご様子だから、こちらが入り込む余地がない……」
「お二人共、何やら浮かない顔をされて。いったいどうされましたか?」
チンギス・ハーンの弟、ジョチ・カサルの子孫、
「おお、これは斉王!聞いてたもれ。実は……」
二人は、この内乱で手柄をあげたいと考えていた。その為にはもっと箔が付く役柄が欲しいので、なんとか皇太子の関心が得たいと考えていることをオルク・テムルに話した。
「なるほど…… 良い考えがあります!ちょうど私が持って参った貢ぎ物の中から、お好きなモノを一つ持って行かれるがよろしいかと。さあ、これをご覧あれ!」
オルク・テムルが手を叩くと、召し使い達が現れ、目を皿のようにして驚く二人の目前に、次々と貢ぎ物を並べた始めた。
真っ青な
二人は、この豪華な貢ぎ物に目を輝かせて見入っていた。
「さあ、この中から一つ選ぶだけで良いのです。よーくお考えになれば、皇太子殿下が、今一番何をお望みなのか?答えが自ずとおわかりになる筈……」
二人は互いに顔を見合せた。
「……せ~の!これでお願いします!!」
二人の出した答えに、オルク・テムルは満足そうな笑みを浮かべた。
「……では、どうぞお持ち下され」
二人はさっそくオルク・テムルからもらい受けた小猿を皇太子の元に持って行った。
ゴマ擦り作戦開始だ。
「皇太子殿下!我らは
二人の従兄は召し使いに命じ、優美な曲線を描いた鳥籠を開けさせた。
鳥籠から、白い小猿が元気に飛び出し、皇太子の目前で愉快に踊り出した。
「うわ~可愛い!!欲しいなあ!」
皇太子は小猿に向かって手を伸ばすと、小猿は腕を伝ってちょこんと肩に乗った。
皇太子はすっかり小猿が気に入ってしまった様子。しめしめと二人はほくそ笑んだ。
予想は大的中。
「勿~論、献上致します!我らは皇太子殿下に喜んでいただこう!その一心で密林を探し歩き、人食い土人や虎に豹と戦い勝利を収め、遂に!この幻の白い猿を見付けたのでございます!」と、身ぶり手振りで猛獣との激しい格闘の様子を伝えるオンシャン。
人からもらった物なのに。よくそんな作り話を思いつくなと思う。
「……辛い旅路でした。しかし皇太子殿下の笑顔が見れるのなら、これしきの苦労など
天竺ってそんな場所だったっけ。
そして二人で声を揃えて言った。
「我らの皇太子殿下への変わらぬ忠誠心をどうか!いつまでもお心の隅にお置き下さりませ!」
「うん!いろいろ大変だったんだね!ありがとう!よきにはからうね~」
「はっ!ありがとう存じます!是非お遊びのお相手に!」
「うん!ところでこのお猿はなんて名前?」
「……えーと、
*∽*∽*∽*∽*∽*∽*∽*
「夜も昼も警備が厳重か……」
トクトアは部屋に戻って、ひとり脱出計画を練っていた。
卓子には、紙、絵筆、絵の具が置かれていた。
門衛の役目は非情そのもの。
トクトアも、
その門衛が検分をしている。いくら旅芸人と言えど調べも厳しい筈だ。一座の長持ちにでも隠れて通り抜けようとしても、荷を検められ見つかれば、座長は厳罰に処されるだろう。 人数さえも確認と記録がなされているので、一人が増えてもまた欠けても厳しく咎められてしまう。
トクトアはひとりで上都に入ったのも、座長にこういった面倒事をかける訳にはいかぬと思ったからだ。
しかも検分を行う城門は一ヶ所に限られ、あのドジョウ髭の門番がいる。向こうは自分の顔と身分を知っており、既に、何かしら通達を受けていると考えた方が良いかも知れない。
トクトアは、隊商の歌を思い出した。
〈押しても動かぬ剛の門は、尊き父母の恵みで開く〉
「剛の門とは、門衛が守る城門。尊き父母とは、国の父母である皇帝と皇后。恵みとは、国の父母が出した許可証か円符のことを示すのだろう。確かにそれがあれば門など簡単に通り抜けられる。だが、問題はどうやってそれを手に入れられるか?だな。あとは……」
トクトアは絵筆を取り、紙に絵を描いていた。
それは小高く盛り上がった、夕陽が見える丘だった。
「……ここまでの距離はざっと四十里(約20㎞)。馬が全速力で走れる距離なんてたかが知れてる。せいぜい三里くらいが限度…… この丘からさらに南の九十四里(約47㎞)先、大都の兵が駐屯している
トクトアはあの不恰好な鷹を思い出して笑った。
そこへ誰かが部屋の扉を叩いた。
「私だよトクトア、入っても良いか?」
「皇太子殿下」
こっちが返事もしない内から、もう皇太子は室内に入って来ている。
「……殿下」
「ごめんよ。……でもいい友達が出来たんだ!見て見て、とっても可愛いでしょ!?
小猿は皇太子の肩から降り、トクトアの前に来てぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「……これはこれは。なんとも賢いお猿ですね。皇太子殿下の親衛隊になれそうです」
皇太子は
眠眠の豆知識(=^ェ^=)
こんにちはニャン。
華北地区の河北省北東部の川の名前。上流は閃電河と呼ばれる。華北では黄河と海河に次ぐ大きさの水系で、河北省と内モンゴルのドロン(多倫)県流域にまたがり、そして渤海へ流入する。閃電河周辺は湿地帯が広がり、美しい高山植物が咲き乱れ、緩やかに蛇行する浅い川、湖、なだらかな丘には羊達がいっぱいの魅力的な場所。
暑がりの皇帝達は、ここでもレジャーを楽しんでたんじゃないかニャ。全くうらやましい~
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