タイムワープの謎を解く
第26話 手掛かり
宮殿の前にある中書省(南省)、南倉庫の近くにも、文具・書籍市があるが、多くの官吏達が通うので遠慮した。北中書省の方面へ行くには、大都のほぼど真中にある鼓楼から、十字路(メインストリート)を歩いて鐘楼を目指せばいいのだ。
「写真に残したいけど、携帯無くしたから残念だわ!」
なくした鞄の事を思い出して気持ちが落ち込んだ。
しょんぼりしながら歩いていると、通りの塀の壁際を背にし小さな折り畳み式のテーブルと椅子を置き、こっち向きに座っている女性の占い師がいた。
テーブルには黒いテーブルクロスが敷かれ、水晶玉の他に易者が使う細長い棒がいっぱい詰まった筒が置かれていた。
ドラマかなんかでよく見る占いセット。
立て看板が設置されていた。
「なになに、本日、占い市やってます!あなたも占ってもらえば!って書いてあるわ」
「占いはいかが?皆様の運命を占って差し上げます!ぴたりと当たりますよ!」
(占いで帰れたら苦労はしないわよ)
占い師をちらりと見た。
幸か不幸か、お互いの目が合ってしまった。それからが変なことの連鎖反応か?
突然、占い師は椅子から転げ落ち、まるで何かに怯えるような表情をした。
「あの、大丈夫ですか!?」
思わず駆け寄るが、相手は更に怯え、身体を震わせてついには奇声を上げる始末。
「キョエー!!お、恐ろしいっ!!」
占い師は商売道具を置いたまま、その場から飛ぶように逃げ出した。
「え!?いったい何!?」
他の同業者達も、さっきと同じような反応を見せた。
「ひゃ~命だけは!!」
「うわ!!無理っ!!」
皆、化け物か何かに遭遇したかのように逃げて行く。
中には全く平気って顔のもいたが、そういうのに限って胡散臭そうなインチキ占い師。
「いったい何!?私に何か取り憑いてるとでも言うのかしら?」
訳も分からず、その場に立ち尽くす。
こんな時に蘇州のお祖母ちゃんがいたならきっと解決してくれるのだが、残念なことにそれは無理な話だ。
(なんか分からないけど、余り気にしない方が良さそう。多分、お祖母ちゃんならそう言うわ)
歩けば、次第に元気が出てきた。
まず目印の鼓楼が見える。
鼓楼の下を通り抜け、十字路の大通りに入って驚いた。
近くには大きな宗教施設が集まっており、
久しぶりに友人に出逢った様な気がした。
「うわー綺麗!!現代よりも真っ白だったんだ!」
仏塔に向かって手を振る。
この前、鼓楼と市場の土産物に気を取られて全く気付かなかった。
毎日が、まるでおとぎの国にいるようで、物珍しく、そんな広い範囲まで見ている余裕がなかった。
現代と元代の暮らしの違い、建造物、風習や習慣などを比較し臨機応変に適応していった。
最近凝っているのが鼓楼と鐘楼で、いつ鳴るのかいつ鳴るのか?と楽しみに待っている。
そして何の気なしに振り返ってみた。
もっと夢中になれそうなものを発見する。
ここからず~と南の方を見ると、小高い丘の様な
宮殿の敷地内、
その瓊華島にもあった筈の、白い仏塔(永安寺)は何処にもなく、代わりに金色に輝く夢の空中楼閣のように美しい塔が緑の木立の中から一際高く目立ように建っていた。
フビライ皇帝がリニューアル工事をした新・広寒宮である。
間違いなく大都のランドマーク的な存在だ。
「す、凄い!!元代にあんな建物があったなんて驚きだわ!行ってみたいな~」
(そうだ!トクトア様に連れて行ってもらおう!ナイスアイデア!)
嬉しくてスキップをしながら歩いた。
大都の街は美しい建造物が多いモニュメンタル・シティーだった。
特に都の人々に親しまれているのは、鐘楼と鼓楼ではないだろうか。
鐘楼前の大路を歩き、無事、文具・書籍市に到着した。
「結構歩いたから疲れた…… なんかもう、どうでも良くなってきたわ」
ちょっとはしゃぎ過ぎたらしい。
帰りが大変だ。
しかし、せっかくここまで来たのだから、何かしら情報を得なければならない。
丁度目の前にあった書籍の店に寄る。
しかし、本は店の奥から入り口まで山積みの状態だ。
(うわ~何がなんだかよく分からない……)
それでも根気よく書籍を見ていく。
探すのは時間を旅した人の話だ。
タイムワープなんて概念が、今の世にあるのかは分からない。しかし、ないとは言いきれない。
なんと言っても自分は当事者なのだから。
(あ!これは、拾遺記だ)
『拾遺記』六朝時代に書かれた奇怪な話を集めた書で、
その内の一冊が、今、自分の手元にある。 パラパラと頁をめくっていると、『洞庭湖の竜女』という話が見つかった。
漁夫が湖の乙女を助け、湖底の竜宮城へ招待され、そのまま一緒に暮らすが、ふと故郷の母の事を思い出す。乙女は彼に箱を渡し「私に会いたくなったら私を呼びなさい。しかし、この箱は決して開けないで!」と言った。湖から出て彼は家に戻るが、母はとうに死んでおり、誰も知り合いがいなかった。彼は〈開けてはならない箱〉を開けてしまう。すると白い煙が出て、それを浴びた彼は急に年老い、湖の前でばったりと倒れて死ぬ。という話だ。
この話に似たのが世界各地に存在する。
ひょっとしたらこれもタイムワープの話なんだろうか?
次に手に取ったのは『
昔話『
数人の童子と出会い、 彼らからもらった
山から家に帰って来ると多くの時が流れ、誰も居なくなっていた、という話だ。
(駄目だ。どういう意味かさっぱり分からない……)
ただ、二つの話に共通するのが、物凄く時間が進んでたって事ぐらいだ。
玉手箱や棗に斧とか、小道具はどうでもいい。過去へ戻る話ではない。
しかし、これが実際、誰かの身に起きた体験談だったとしたら?
いや、あるいは夢かも知れない。
『
大きくため息をついた。
「あら、どんな本をお探しかしら?」
沢山積まれていた本の間から、五十後半くらいの女性が顔を覗かせた。女性はシュエホアを見ると、瞬時に顔色を変えた。
役に立つ?豆知識。
中書省(南省)
中書省は中央官庁の一つで、最高行政機関。宮城の敷地内にはない。
元朝では六部も管轄に入っている。(吏部、戸部、礼部、兵部、刑部、工部の尚書省の事)もう中華のやり方そのままを受け継いでいる?
宰相クラスの偉い人がいる役所。バヤンは昔、吏部尚書だったが、左遷の憂き目にあった事がある。
中書省(北省)
別名、翰林国史院。
南省から離れている。かなり遠い。国書の編集,科挙,学政を司る。制書,詔書などの起草も司った官庁。国史の編纂間違える時が…… わりと大雑把?
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