第17話 月下老人
『 定婚店』とは。
昔、
ある夜、旅先の宿場町でひとりの老人に出会う。老人は赤い糸(紐)を袋から取り出していた。
老人は「自分は人の縁組みを取り決めている。この赤い糸(紐)を、定められた男女の足首に巻くと、必ず二人は結ばれるのだ」と言った。
そして老人は韋固に、野菜売りのお婆さんが連れている三才の女児と十四年後、結ばれると言う。
しかし、韋固はその女児が醜いと見るなり、下男にその女児を殺すよう頼んだ。ところが下男は見事にしくじった。
刃物は女児の額を傷付けたが、致命傷にはいたらなかった。
それから、再び韋固は婚活に励むが、ことごとく失敗する。 その間に十四年の月日が経った。そんな彼にようやく春が訪れた。
ラッキー、相手は十七歳の美少女だった。しかし、娘は何故か額に貼っている花子(当時、流行っていた額の飾り)をどんな時もしたまま、決して取ろうとしなかった。
娘からその理由を聞いた韋固は驚いた。なんと娘は自分が下男に命じて殺させようとした、あの三才の女児であった。
因みにあの野菜売りのお婆さんは乳母だという。韋固は事実を話し、二人は結ばれたという。
そしてこの宿場町は定婚店と名を付け、人の縁を取り持ったり仲人をする人は、〈月下老人〉と呼ばれたそうな。めでたし、めでたし!
「えー!!ちっともめでたくありませんわ!このクソ爺の……って失礼。この老人のせいで、この娘はこんなつまらない男の妻になるんですよ!!不愉快極まりないです!!」
「だが、当人同士が幸せなら良いのでは?」
「それはそうですけど…… でも私なら、絶対に許しません!だってそうでしょう!?女の顔に傷をつけたのですよ!可哀想に、どんなに辛かったことでしょう。傷もそうですけど、心の傷も一生消えません!!」
シュエホアは鼻息荒くまくし立てた。
この話は絶対、男性が書いたに決まっている。
娘も相当な変人だ。
何故、平気で人を傷つける様な男の妻になれるのか理解し難い。
笑えるのがラストだ。観光名所的な存在になって、老人の所業を倣って終わり。
これをサスペンス風にして、何か小説でも書けないだろうか?とシュエホアは思った。
それくらい納得出来ない話だった。
「確かに……」
「でしょ!でしょ!トクトア様ならどうします?」
「私か?そうだな…… バレないように殺すかな。毎日、少量ずつ薬を盛るんだ」
トクトアは顔色ひとつ変えずに言った。
「いや、事故に見せかけて殺害か。死ぬ前に本人には分かるようにしてな……そっちがより絶望的だろう。後は完全犯罪だな……」
(綺麗な顔して言うことが怖い……)
彼なら本当に完全犯罪を成功させそうだ。
シュエホアは話に関係なく、自分が犠牲者第一号にならないことを祈った。
「ところでシュエホア、其方は何故、蘇州から来たのだ?」
突然の質問に困ってしまう。
トクトアは真っ直ぐこちらを見つめている。
人の心の奥深くを見透かすような目にたじろいだ。
まるで刑事ドラマの取り調べの場面の刑事と犯人みたいだ。
まさか本当の事など言えるはずもなく、とりあえず予め考えていたシナリオを言うしかない。
さあ、幕が上がり猿芝居の始まりだ。
私は新人オーディションを受ける女優の卵で、あちらは発掘する監督だ、と思い込む事にした。
「実は、私…… 駆け落ちしたんです。でも、まさか!あの人が。あの人が私を見捨てて逃げるなんて!もう、家には戻れません」
好きでもない人(見合い相手のこと)を駆け落ちの相手にするなど、本当なら耐えられないが今はそんなことを言ってられない。
しっかり道筋立てて話せば、バレる心配はないだろう。
決して焦ってはいけない。
いざとなったらまた言い切ってしまえばいいのだ。
もう、現実とフィクションを混ぜてしまえばいい。
(考える人っぽくした方がいいかな?それとも、頭を抱えた方がいいかしら?)
迷ったが、どちらのポーズもしなかった。
そんな事よりも今現在、帰るに帰れないこの現状の方がかなり深刻で、それを思うと本当に泣けてきた。
(私はこれからどうすればいいんだろう?)
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