第13話 少女時代
実は身体にも異変が。
(あれ!?なんか、顔が変わった?)
洗顔後、鏡に映る自分の顔を見て、違和感を抱く。
幼くなった?
「赤毛…… あれ!?」
髪が赤い。それは忘れもしない、小さい頃から十代後半くらいまでの髪色なのだ。栗色ではない。
この髪色のせいで、
東欧で一番の近隣国がロシアだからという理由でだ。
最も、〈蘇州のアムステルダム〉と言われるよりかはマシである。
まあ両方に共通するのが運河くらいだが、言葉の響きが滑稽に聞こえるから嫌だ。
じゃあヴェネチアは!?
蘇州の別の雅称〈東洋のヴェネツィア〉もあるのに。
中には〈アパルトヘイト〉というあだ名で呼ばれている子もいたから、子供とはなんとも残酷だ。
こんなあだ名を付ける奴は大抵男子で、いじめっ子に多い。
自分達で付けたくせに言いにくいのか、思い切り縮め〈クワ〉とだけ呼び始めた。
いい加減頭にきていたシュエホアは、丁度掃除の最中だったこともあって、手にしていた雑巾を思いっきりそいつの顔面にヒットさせて逆に泣かしてやった。
いつも泣かされていたからスカッとした。
こんな人の心の痛みを分からないような輩には、正義の鉄槌を下してやるのが一番だ。
成人になる頃には髪色も落ち着いてマルーンになってきていた。
本当は金褐色に、いやブルネットに憧れていた。
でも神様に贅沢は言えないか。
(は?何で?まさか若返ったとか!?)
気のせい?背も少し縮んだように思う。
鏡をじっと見つめたまま、なかなかその場から離れようとしないシュエホア。
ユファは、いったいどうしたのだろう?と不思議に思った。
突然、シュエホアは振り返って聞いた。
「ねえ、私はいくつに見える?」
唐突にそう聞かれてユファは悩んだ。
正直に見たままを答えた。
「十四…… いえ、十五歳でいらっしゃいますか?」
ユファの答えに喜ぶべきか、悲しむべきか。
「……正解!歳が近いから嬉しいわ」
これは嘘。仮にこれが本当でも、中途半端な年齢なので嬉しい訳がない。
身体も心もまだ未熟で完成されていない。
現代なら大人として認められない。
一つだけ良い所は、なんと言ってもシミの心配のない、ぴちぴちとした張りのある肌くらい。 恐るべし十代。
そんなシュエホアの思惑をよそに、ユファは自分と年が近い、この客人が気に入った。
(はあ、まだ寝てるのかな?私)
余りの衝撃に、しばらくボーとしていたが、いつまでも寝間着のままでうろうろする訳にもいかない。
乾かしてくれた無地のピーコックブルーのシルク製カシュクールロングワンピースを手に取る。
シンプルなデザインなので気に入っていた。
ユファがもの珍しそうに眺めている。
「西域の服ですか?お色もとても綺麗ですね」
「え、ええ…… そうね。ありがとう」
「お嬢様、よろしければお着替えのお手伝いを致しましょうか?あっ、下着もございます。お返し致しますね」
ブラとショーツ。
(良かった~返してくれた。なんか身体がスースーするなぁって思ってたのよね)
「実は昨夜、侍女達のほとんどが驚いておりました。皆、顔には出しておりませんでしたが…… でも、西域は色々と珍しい物があるのでございますね!」
ユファは興味津々のようだ。
「そうなのよ!驚いたでしょう?あっ、私ならひとりで着れるから大丈夫よ!ありがとう!」
シュエホアはユファの両肩に手を置き、後ろ向きにすると、自分の身体で押すようにして、そのまま部屋の入り口まで誘導した。
足が痛いなんて言ってられない。そして素早く戸を開けると、自分でも気付く程、気味の悪い笑顔を浮かべながら、さあ、とユファに部屋から出るように促した。
「あの、遠慮なさらず……」
ユファはそこまで言い掛けたが、
シュエホアは精一杯の作り笑いをした。
「うん!大丈夫!私なら大丈夫!」
後はパタンと部屋の戸を閉めた。
それから戸の隙間からユファが去ったのをしっかり確認して、良し、と早速下着を身に付けた。
ところが……
「あれ?なんだろう。胸がなんか寂しく感じるけど、気のせいかしら?まさか……」
恐る恐る谷間を覗き込んだ。
「や、やっぱり!なくなってるぅぅぅ!!」
そう、谷間は何処かに出張したらしい。
それだけではない。
インナーで着ていた、胸元にレースをあしらったリブ編みのタンクトップもゆるくなっていた。
サイズダウンしている。
それでも一応ワンピースに袖を通し、姿見に全身を映して確認するが、結果は惨憺たるものだった。
胸元がブカブカなせいか、せっかくのカシュクールワンピが似合っていない。
「ひぇぇぇ~!!」
「何故なの!?全く、次から次へと問題が起こるなんて!世も末だわ!」
鏡に映った自分を冷静に眺めたつもり。
両手の平を頬に当てて―― コミカルな姿がかえって痛かった。
(ど、どうしよう!?身体もタイムワープするなんて知らなかった…… 映画や本ではそんなのないのに)
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