Dark World

天邪鬼

第1話 プロローグ

「百年前、世界は不気味な雲に覆われ、光を奪われた。」


幼い頃に、私は祖母からそんな話を聞いた。元々空には太陽と月があり、昼は暖かい光があらゆる命を育み、夜は静かな優しい光があらゆる命に安らぎを与えたそうだ。だが、今私の目に映る空というものは、見てるだけで不安になるようなどす黒い雲が浮かんでいるだけのものだった。物心ついた時から草木というものは常に枯れているものであり、ただそこにある物体でしかなかった。動物も人間が育てている痩せた犬や猫ぐらいで、野生のものは殆ど見たことがない。人間は今まで培ってきた科学技術などを駆使し、なんとか農作物の栽培や飲料水の確保など行って生きのびている。だがそれでも全人類を補えるほどのものを作るエネルギーも場所もある訳では無い。そのため土地や食物の奪い合いや殺し合いといったものも全く絶えない。そんな世界をどうにかしたくて、私は自国の隊に入隊した。一人のちっぽけな力ではどうにもならないと知ってはいるが、それでも動かずにはいられなかった。両親を病で亡くし、育ててくれた祖母も私の入隊が決まった日に寿命が尽きた。幸い上司や仲間に恵まれ、自分のできる範囲のことは全てやれるようになったころ、私の隊は日本へ派遣されることになった。


「世界を覆い尽くす雲の出現場所は、日本であることが判明した。」


「よって、各国から特殊部隊を派遣することになった。必ず、この世界に光を取り戻せ。」


そう命じられてから3日経ち、ついに明日私達は故郷を離れ、暗い世界を救うため黒雲が生まれる日本へ旅立つ。日本は特に荒れているとの情報もあり、1度行けば無事に帰ってこられるのかも分からない。それでも私は、祖母に聞かされた『青い空』を見たいと思った。世界は様々な色に満ち溢れていたという…絶望的な灰色ではなく、数え切れないほどの色が。その中でも空の色は、最も美しかったと祖母は言っていた。もうこんな生命が枯れ果てた世界を見たくない…絶対に、空の色をこの目で見るのだ。そう心の中で誓いながら、私は家の前の丘の上で、きっとこれで見るのも最後になる灰色の故郷の景色を、しっかりと目に焼き付けた。


「……さようなら、私の死んだ故郷。」

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Dark World 天邪鬼 @amanojaku44

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