第14話 そして幼馴染の彼女と買い物デートをする。
◇◇◇◇◇
「ねぇかおり、ちょっとくっつき過ぎじゃない?」
「なに言ってるの! このくらい普通だよ、ふ・つ・う!」
ファミレスを出て適当に歩きながら、かおりに左腕をしっかりとホールドされている俺は少しうろたえていた。
まあはっきり言って、今まで彼女なんていたこともないし、こういう人目もはばからずのボディータッチには慣れていないのだ。
いつも人目がなくてもドギマギさせられているけど、今回はより一層顔が熱くなる。
「あれ? そうくん、顔赤くない? もしかして照れてる?」
「……べ、別に照れてないし! かおりがあんまりくっつくから暑いんだよ!」
「ふーん」
にやけ顔でのぞき込んでくるなよ! もう!
俺はかおりとは反対側に視線を逃がして、小さく声を出した。
「……なんだよ」
「いや、照れてるそうくんも可愛いなぁって」
なんの恥ずかしげもなく、今度は優しい笑顔でそんなことを言ってきたかおりに俺はしばらく黙る。
いや、別に彼女に「可愛い」とか言われて男としてのプライドが傷ついた、とかじゃないんですよ。
別に俺は自分のことをかっこいいとか思ってないし、可愛いっていうのもまあ誉め言葉なんだろうとも思うし。
でも、なんていうか、可愛い彼女にあんな顔でそういうことをさらりと言われちゃうとですね。そりゃあさすがに照れるってもんですよ。
「……べっ、別に照れてないし!」
俺はかおりのホールドを振り払って、近くの洋服屋に駆け込んだ。
◇◇◇◇◇
「ねぇ、これ、どっちが似合うかな?」
「うーん……とりあえず試着させてもらえば?」
「そうするー」
俺が適当に駆け込んだ店はお気に召したようで、かおりは気になった服をいくつか持って試着室に消えていった。
消えていったって言ってもカーテンを閉めただけだけど。
「ねぇ、俺思ったんだけどさ、今日の中野さんの話ってメールとか電話でも良くなかった?」
「うーん……まあそうかもしれないけど、なんで?」
俺が思い付きで投げた言葉を、かおりがカーテンの向こうでごそごそと音を立てながら投げ返す。
「いやさ、亮のいないところで中野さんに会うってなんかちょっと気乗りしないというか、そう思わないこともなかったからさ」
「私が朝ついていくって言うまで普通に二人で会うつもりだったじゃん」
「……それはそうかもしれないけどさ。一応かおりは昨日の夜のメール見て知ってたし」
そう返されると少し返答に困ってしまう。
もうちょっと捕りやすいボールを投げて……。
「ふふっ、冗談だよ。でもたぶん、そうくんが思ってることなんてすずちゃんも思ってると思うよ?」
「どういうこと?」
俺に質問に、ちょうど着替えが終わったのかカーテンの向こう側の音が鳴り止んで、かおりの言葉だけが聞こえてくる。
「だから、すずちゃんは神木くんの気を引こうと思って、あえてそうくんと会う約束をしたんじゃないかってこと」
あぁ、なるほど。と口に出すより先にサッ、とカーテンが開いて、かおりが「どう? 似合う?」と首を傾げた。
秋っぽいカーキ色のロングスカートに白のトップス、その上に黒いカーディアンを羽織った、いつもより大人っぽいコーデ。
かおりには可愛い系の服が似合うと思っていたけれど、きれい系の服も難なく着こなせるらしい。
服を着替えただけなのに、まるで年上の彼女になってしまったみたいで新鮮だった。
「……おーい。そうくん?」
思わず見惚れしまって黙りこくっていた俺の目の前に、かおりが手の平をひらひらと振る。
「……似合うよ。すごく」
「そ……そっか。じゃあ、これ買っちゃおっかな」
目を逸らしながらぼそっと答えた俺と同じように、かおりも視線をずらして頬を掻いた。
「いいの? もう一つの方は試着しないで」
「いいのいいの」
かおりはすぐ近くにいた店員さんを呼んで服を渡し、レジに向かう。
「そうくん」
「ん?」
「まだまだいろんなお店をまわるから、荷物持ちよろしくね!」
「う……うん」
結局、俺の土曜日は夕方までかおりの買い物に付き合って終わった。
まあ、たまにはこんな日もあってもいいよな。
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