第13話 そして幼馴染の彼女は立ち上がった。

               ◇◇◇◇◇


「やめとけよ。こんな半端な時期に入部したってチームのためにならないし、そもそもお前がサッカー部にこだわる理由もないだろ」


 いつものように亮の部屋にて。


 中野さんがサッカー部のマネージャーになりたいと亮に伝えると、こんな返事が返ってきたらしい。


 まあ真剣に部活に取り組んでいる亮からすれば、それなりに筋の通った言い分なのかもしれない。

 中野さんがサッカー部にこだわる理由というのは亮自身なんだけど。


 ただ、中野さんも亮と距離を詰めるためにわざわざ転校までしてきたのだから、当然簡単には食い下がらなかった。


 そして、サッカー部にどうしても入ると駄々をこね続けた結果――。


 生徒会選挙に立候補することになったと。



 …………うん。どうしてそうなった?



「そこまで言うなら一つだけ条件を出すから、それをクリア出来たら勝手にしろよ」

「条件?」

「あぁ。うちの部は原則、入部するのに顧問と主将の承諾がいるんだ。で、今のチームの主将は縁あって俺がやらせてもらってる。つまり、俺の許可がないと入部はできないわけ」


 中野さんがしつこく食い下がり続けていると、亮はひとつだけ条件というのを提示してきたらしい。


「で、来月生徒会の選挙があるんだけど、それに出て万が一生徒会長に当選でもしたら、入部を認めてやるよ。生徒会長の頼みだったら聞かないわけにもいかないしな」


 「まあ、人見知りのお前には無理だろうけど」と、嫌みっぽく付け足して笑った亮をおいて、中野さんは部屋を飛び出した。


 そして、決意した。


 亮を見返してやると。お望み通り、生徒会長になってやろうと。


 とりあえず、中野さんが話してくれた話はこんなところだ。


 それにしても亮が主将まで任せられていたとは驚きだ。二年なのに主力というのは聞いてはいたが、三年生を差し置いてまとめ役までやっていたとは。

 才能というのは恐ろしいね、まったく。


 ていうか、亮もまたなんでわざわざ生徒会選挙なんてもんを条件に出してきたのか。


「中野さんがそれなりの覚悟を決めたっていうのは分かったんだけど、まずは月曜までに応援責任者を探さないとだね」

「うん。でもなんだ……それはもういいかな」

「すずちゃん、私たち以外でやってくれそうな人がいるの?」


 一通りの話を締めるのに、中野さんはコーヒーを飲み干して立ち上がり、ニコッと笑った。


「あんまり頼りたくはなかったんだけどね。まあ、けしかけてきた責任はとってもらわないとだし。二人とも、今日はありがとう。私もう帰るから、お代はこれで払っといて! またね~」

「え? あ、うん」

「すずちゃん、また月曜日にね」


 机の上には千円札が一枚。


 席には残された俺とかおり。


「えっと……俺たちも帰ろうか?」


 来週からまた色々と面倒なことが繰り広げられそうだなぁ、と他人事のように思いながら、かおりをちらりと見る。


「うーん……どうせだし、買い物に付き合ってよ。私たち付き合ってから、まだ一回も出かけてないしさ」


 かおりは随分とあからさまに、さぞ今たまたま思いついたかのようにそう言って腰を上げた。

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