第3話 そして幼馴染の彼女はやってきた。(3)

               ◇◇◇◇◇


「いやぁ、まさか中野さんがこんな豪邸のお嬢様だったなんてなぁ」

「ほんとにね。執事さんとかメイドさんとかもいるし……」


 門が開かれて立派な庭を歩き、出迎えの使用人さんらしき人たちに歓迎されて部屋に通されて、俺たちは改めてそう口に出した。


「そんな立派なものじゃないよ。普通だよふつう」

「いや、普通の家に使用人なんていないから!」


 俺たちが通されたこの部屋も長いテーブルに高そうな椅子がいくつも並んでいて、その上には大きなシャンデリアまでぶら下がっていた。


「そんなことよりもほら、二人とも座って座って」


 中野さんの声に合わせて、部屋の隅に佇んでいた年配の執事二人が大きな椅子を引く。


「あっ、すみません」

「ありがとうございます」


 それから執事は俺たちににこっと爽やかに笑って見せた。


 おぉ~。


 それっぽい。

 さながら映画のワンシーンのような執事として完璧な仕草だった。


 ただ――。


「あの……中野さん、執事さんたちがいるとなんか話しにくいんだけど……」


 俺がかおりに視線を向けると、彼女も黙ってうんうんと頷いている。


「そ、それもそっか。二人とも、もう下がってていいよ。ありがとう」


 中野さんが声をかけると、執事は一礼してすぐに部屋から出ていった。


「それで、親睦会ってなにすればいいんだ?」


 俺はずっと気になっていたことを口に出す。


「そりゃあ……みんなでお菓子食べたりジュース飲んだりお喋りしたり?」

「かおり、それだったら先にコンビニかどっかで買い出しに行――」


 俺の言葉が、中野さん遮られた。

 彼女の誰に向けているのか分からない声に。


「――吉野! 適当にお菓子と飲み物持ってきて!」


 中野さんが声をあげてから、十秒も掛からなかったと思う。


 部屋の扉がノックされ、中野さんの返事を待って先ほどの執事の一人がお盆を持ってやってきた。


 どうやら、吉野さんというらしい。


「お待たせしてしまって申し訳ありません。こちら、京都の老舗から取り寄せましたクッキーとダージリンティーになります」


 吉野さんは盆の上のおしゃれなポットから、俺たちそれぞれの前に置いたカップに紅茶を注ぎ入れてくれる。


 テーブルの真ん中にちょこんと置かれた少量のクッキーは、きっと俺には想像もできないくらい高いんだろう。


「それでは、また何かありましたらお声かけください。失礼いたします」


 吉野さんはさっきと同じように頭を下げて部屋を出ていく。


 それに俺も会釈を返して、目の前の紅茶を一口。


「ッッッ⁉」


 うっま!


 顔を近づけただけで俺の知っている紅茶とはどこか香りが違うとは思ったけれど、口に含んだ瞬間鼻から茶葉の香りが抜けていくし、不思議と猫舌の俺でもごくごく飲めてしまう。


まさか紅茶がこんなにおいしい飲み物だったなんて……。


「そうくん? どうかしたの?」

「いや、この紅茶めっちゃ美味いん――」

「――あっ。そういえば結局、すずちゃんはなんで神木くんに黙って転校してきたの?」

「…………」


 ガン無視された……。


 かおりが聞いてきたから答えたのに……。


「えっと、それはまあ」


 落ち込む俺なんて気にもせずに、中野さんは頬をポリポリと掻いてかおりに答える。


「ちょっとこのままじゃまずいかなと思って。そろそろ進展したいかな……なんて」


 視線を少しだけかおりから外した中野さんの表情は、恋する乙女のそれだった。

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