第2話 そして幼馴染の彼女はやってきた。(2)

               ◇◇◇◇◇



「で結局、なんで転校してきたんだよ。しかも俺に黙って」

「だからあんたには言わないって言ってるでしょ」


 放課後の教室で、中野さんが亮を黙らせる。


「それよりもう部活始まるんじゃないの? 早く行ったら?」  

「……言われなくても行くわ。じゃあ奏太、藤宮、先に行っててくれ」

「おう」


 亮は少ししゅんとしてから、虚勢を張って教室を出ていった。


「じゃあ二人とも、行こっか」

「そうだね!」


 今日はこれから、中野さんの家で親睦会をひらくことになっている。


 昼休みにかおりが言いだして急遽決まったことで、うちやかおりの家では手狭なのでどうしようということになっていたところに、亮がそれなら中野さんの家でと提案して決まったのだった。


「えっと、中野さんちは亮の家の近くなんだっけ?」

「うん。歩いて三十秒くらいのとこだよ」


 亮は電車は使わず自転車通学で家まで十分かからないと言っていたので、歩いて三十分かからないくらいの距離だろうか。


「もしなんだったら、車で迎えに来てもらう?」

「いや、それはさすがに悪いよ」

「そうだね。歩いて行こっ」


 気を回してくれた中野さんには悪いが、自転車を引いて俺とかおりと一緒に歩いてもらうことになった。


「――ふぅ、着いたよ。やっぱり歩くと結構かかるね」


思っていた通り、学校から三十分ほど歩いたところで中野さんは足を止めた。


「ちなみに、あれが亮の家だよ」


 中野さんは通り沿いにある家を指さして言ったが、俺とかおりはそれに反応できない。


「二人ともどうしたの?」

「いや……」

「どうしたのって……」

「ん?」


 中野さんは不思議そうにしているが、俺たちが反応できなかったのはすぐそこに視線を奪われていたからだ。


 そう。


 目の前にある、一般家庭が十は入るであろう大豪邸にだ。


 立派な表札にはしっかりと『中野』と刻まれている。


「「中野さん(すずちゃん)ちってもしかしてめっちゃ(お)金持ち⁉」」


 住宅街に響いた俺とかおりの息ぴったしな叫び声は、もしかすると学校のグラウンドまで風に乗って聞こえたかもしれない。






 いや、さすがにそれはないか。

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