第68話 なぜだか幼馴染の彼女が親の前でベタベタしてくる。
◇◇◇◇◇
「ということで私たち、晴れて付き合うことになりました~」
慣れ親しんだ我が家の食卓に、今日ばかりはキャパオーバーの人数が集まっていた。
かおりの報告に「おぉ~」だとか冷やかすような声と拍手が入り混じって聞こえてくる。
「(普通こんなんする?)」
「(だって帰ってお父さんたちに言ったら、お祝いしなきゃって言い始めて……)」
「(だから風呂から上がったら母さんも茜もニヤニヤしてたのか……)」
親同士が繋がってるって怖い……。
お互いの家族で夕食会って、それ結婚間近のイベントだろ。
付き合っただけでこんなに大騒ぎされちゃ堪ったもんじゃない。いい晒し者だ。
「坊主、これからも頼むぞ。それと前にも言ったが、かおりを泣かしたらただじゃおかないからな」
「ちょっとお父さん! 余計なこと言わないでいいから!」
がっはっはと高笑いをしながら、おじさんが肩に腕を回してくる。
「って臭っ! 酒臭っ!」
どうやらおじさんはだいぶ酔っぱらっているようで、俺は思わず大声で叫んでしまった。
「それにしても本当に、奏太にこんなに可愛い彼女ができるなんてね~。お父さんに教えてあげたらきっと驚くわ」
母さんがひとつ息を吐いて、感慨深げに遠い目をする。
「いや、父さん死んでないからね? ただの単身赴任だから」
「あら、そうだったかしら」
すっとぼける母さんからも、随分ときついアルコールの臭いがした。
「そーうくん!」
「かっ、かおり⁉」
いい歳して子どもの前で酔っぱらっている親たちを見て呆れていると、突然かおりが肩にもたれかかってきた。
「おいおい、見せつけてくれるじゃねぇか」
「まあまあ」
「かおりったら、奏太くんのこと大好きなのね」
親たちの前でベタベタとボディタッチをされて、肩に頬を擦り付けるようにすり寄られて。
……これなんて拷問だよ。
いや、嬉しいけども!
「かおり。き、急にどうしたの?」
「…………昔みたいに呼んでよ」
かおりは至近距離での上目遣いで、それに加えてパジャマ姿で胸元がちらちらと目に入ってくる。
「か……かおちゃん。それでどうしたの?」
「どうしたもこうしたもないでしょお! 恋人同士なんだから、このくらいふつうだってぇ」
言葉を最後まで言ってか言わないでか。
彼女は微妙なところでこてんと眠ってしまった。
親の目の前であるということさえ忘れてしまえば、世の中の男子高校生が一度は憧れる、彼女が自分の肩で眠っているというシチュエーション。
スヤスヤと寝息を立てるかおりは、どこか色っぽくてつい見入ってしまう。
ほどよくはだけた首元、紅潮した頬。
「ん? もしかして――」
かおりの前に置かれている飲みかけのドリンクの臭いを嗅ぐと――。
「これ、酒だ……」
紛れもなく、中身はフルーツ系の缶チューハイだった。
「あんた、見せつけてくれるじゃない」
今まで親たちとは対照的に、黙々と食事を続けていた茜が俺の耳元でぼそっと呟く。
「……うっせ」
「ジュースおごるの、忘れないでね」
それから一時間以上続いた食事会から逃げるように、茜はそんな捨て台詞を残して部屋へと戻っていった。
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