最終話 なぜだか始まりと終わりは同じ場所だった。(2)


               ◇◇◇◇◇


「まったく、母さんたちも困ったもんだよなぁ」

「そうだねー」


 食事会も無事お開きとなって、その少し前に目を覚ましたかおりの酔い覚ましがてらの散歩で立ち寄った公園のベンチで二人並んで談笑する。


「俺の勘違いも、この公園から始まったんだよね」

「そうくん、人の話は最後までちゃんと聞かないとだよ。そのせいでついこの間まで私のことも忘れてたんだしさ」

「でもめちゃくちゃ勇気出した告白だったんだよ」

「でもその告白だって昨日まで忘れてたじゃん」

「……」


 今なら分かる。


 球技大会の日に、体育倉庫でかおりが怒った理由が。


 最後に会ったときに告白してきた相手が再会したら自分のことをまったく覚えていなくて、自分にしてきたはずの告白だってまったく心当たりがないといった様子だったら、そりゃあ少しはむっとするだろう。


「でも良かったよ。振られたんじゃなくて」

「へへっ」


 かおりが嬉しそうに俺の太ももの上に頭を乗せる。


「これって普通逆なんじゃ……」

「いいの! 私たちは私たちなんだから」

「それもそっか」


 俺は彼女の髪を丁寧に撫でた。


 きっと、俺たちみたいな別れ方をして、また出会って、そして付き合ったカップルなんて日本中探しても他にはいないだろう。


 でも――。


 それはたまたまそうだっただけで、誰の大切な人にだって代わりはいないし、俺にとってのそれがかおりだっただけなんだとも思う。


 他の誰にとってではなく、自分にとっての特別な存在。


 それだけで十分だ。


 俺はその大切な存在を長らく忘れてしまっていたけれど、昨日ようやく思い出せた。


 それなら、その空白の期間の分まで、これからもっともっと彼女を大切にしていかなくちゃと切に思う。


「かおり――」

「なに、そうくん」


 俺は一度空を見上げて、それからかおりに視線を落とした。


 この四年間の伝えたかったすべての想いを込めて、満を持して。




「――好きだよ」



「私も、大好きだよっ!」



 かおりは俺の腰に抱きついて、その言葉に答える。




 すべての始まりの場所は此処だった。



 そして、また新たな始まりも――。






 俺はかおりの額に、そっとキスをした。



                              【第1章 了】

         



 

 

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