第65話 なぜだか彼女はいつも隣にいる、そんな女の子だった。(4)
「うわっ……あっつ」
折り畳み式のはしごを床におろして上まであがると、むわっとした生ぬるい空気が顔に当たる。
俺はなるべく息継ぎの回数を少なくして、手探りで天井からぶら下がった紐を引っ張り電気をつけた。
所々蜘蛛の巣が張られている中で、それっぽいものはないかと見渡してみる。
昔使っていた古い浮き輪やら、祝い事でもらったが使っていないタオル類やら、懐かしいものから見覚えのないものまで色々なものが置いてある。
「――あっ……」
そんな中で、『捨』と大きくマジックペンで書かれた段ボールがひとつだけ悪目立ちしていた。
絶対にこれだ。
そんな確信をもって段ボールを持ち上げ、下まで運び出す。
折り畳みのはしごを収納して、屋根裏部屋の扉をしっかり閉めて、それから段ボールを部屋まで持っていき、箱を開いた。
留めてあったはずのガムテープが剥がされていたのは、きっと前に母さんが中身を確認したからだろう。
中からは小学校どころかそれより前の写真も出てきた。そのほとんどがツーショットで、写真の中のかおりはいつも満面の笑みだった。
「あっ、これ……」
一枚の写真を見つけて、思わずつぶやく。
前にかおりの部屋で写真立てに入っていた、学園祭でのツーショットだ。
この後にかおりが他の男子に告白されるだなんて夢にも思っていないであろう当時の俺は、のんきにピースまで作っている。
それ以外にも小学校の運動会の写真だったり、林間学校や修学旅行の写真だったりが次々に出てきて、ついこないだ思い出したばかりの記憶が本当にあったことなんだと改めて実感させられた。
「ほんと、このままじゃ駄目だよな……」
段ボールの中には昔かおりからもらったプレゼントなんかも入っていて、俺はクマのぬいぐるみと見つめ合いながら小さくそう声に出す。
「奏太! あんた早くしないと学校遅れるわよ⁉」
「やばっ! 行ってくる!」
一階から聞こえてきた母さんの声に焦って時計を見ると、もう出るはずだった時間を十分近くオーバーしていた。
俺は写真たちを広げっぱなしにして、家を飛び出す。
「――そうくん、おはよ」
そしてまだ心の整理もついていないというのに、なんと家の目の前でかおりに声をかけられた。
「かっ、かおちゃ……かおり⁉」
気が動転して思わず昔の呼び名で呼んでしまいそうになる。
「別にかおちゃんって呼んでもいいんだよ?」
「そ……それはさすがに恥ずかしいって。俺たち、もう高校生だよ? ってそれより急がないと! 今日は始業式の準備あるから早くに行かないといけないんだよ」
「あぁ、それなら茜ちゃんがやっとくから気にしないでいいって言っといてってさっき言ってたよ。二人でゆっくり来るようにって」
「そっか。なら良かった」
絶妙に気が利くところがなんだか少し悔しいが、茜の厚意に甘えて二人して並んで歩く。
かおりは俺になにかを聞いてくるようなこともなく、まるで花火大会の日、俺たちの間には何事もなかったかのようだった。
ピコン。
『今度、ジュースでもおごりなよ』
俺のことを見透かしているかのような狙いすましたタイミングで、茜からメッセージが送られてきた。
『……考えとく』
かおりと自然に話すきっかけをくれた姉に、俺は少しだけおごってやってもいいかなと思った。
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