第64話 なぜだか彼女はいつも隣にいる、そんな女の子だった。(3)
――夢を、見ていた。
昔かおりと過ごしたシーンを所々かいつまんでいるかのような、そんな夢を。
「ちょっとあんた、いつまで寝てんのよ。今日、始業式よ?」
「んー……」
茜に呼ばれ、タオルケットの中に顔を埋めた。
「奏太、いい加減にしな! 補講はともかく、もう学校が始まるんだから。始業式だって生徒会の仕事あるのよ? もう再来月には生徒会だって代替わりなんだからね!」
「ん……分かってるよ」
俺はしぶしぶ布団から起き上がり、洗面所に向かう。
言われなくたって分かっていた。うじうじ部屋にこもっていたって、何も変わらない。
あのときと一緒になってしまう。
中学の時はそんなことをやっていたせいでかおりにきちんとお別れもできなかったというのに、俺はまた同じことを繰り返していた。
冷たい水で顔を洗って、一階に下りる。
机の上には当たり前のように俺のトーストが置かれていて、茜は居間へ入った俺と入れ違いで家を出ていった。
「おはよう、奏太。今日はちゃんと起きてきたのね」
「……まあ、夏休みも終わったからね」
「奏太が部屋に引きこもるなんて、中学でかおりちゃんが転校しちゃったとき以来かしら」
パンにかぶりついた俺に、母さんはにやけ顔で続ける。
「かおりちゃんと、なにかあったの?」
「…………なんもないよ」
こういうときに限って変に勘が働くのだから、本当にたちが悪い。
「あんた、あのときだってそう言ってたでしょ? かおりちゃんとの写真だとか思い出の品とか全部まとめて捨ててくれって言ってきて、そのくせ理由を聞いてもなんでもないって」
「……」
今思えば、なんであんなことをしてしまったのか。
かおりと再会できるんだったら、思い出が詰まったものもきちんととっておけばよかった。
そりゃあいくら部屋の押入れをひっくり返したってなにも出てこないわけだ。
「そういえばまだ、屋根裏に置きっぱなしだったかしらね」
「え?」
母さんの言葉に一瞬、時が止まった。
「捨ててないの?」
「捨てるわけないじゃない」
俺に間髪入れずに母さんは答える。
「屋根裏を探せば出てくるはずよ? 気になるんだったら自分で掘り返してみれば?」
俺は時計を見て、残りのトーストを一気に牛乳で流し込んだ。
まだ家を出るまで二十分はある。
「ごちそうさま!」
食器とコップを流しまで運んで、早足で二階へ上がる。
そして廊下の端に置かれているフック棒を手に取って、二階の天井にある屋根裏部屋の扉を開けた。
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