第20話 なぜだか体育倉庫に閉じ込められる。(2)
◇◇◇◇◇
「はぁ……」
体育倉庫に閉じ込められてから十数分。
最初のうちは外に出れるような窓はないか、どうにか中から鍵を開けたりはできないかと倉庫内をうろうろとしていたが、どうやらその望みは薄いようで二人してへたり込んだ。
「誰か気づいてくれるかな?」
「土日は体育倉庫も使わないだろうし、下手すると来週の月曜までこのままかもな……」
スマホは教室のかばんの中で、外との連絡は一切取れない。
そんな中でも唯一の救いだったのは、倉庫が比較的新しく、電気がついたことだった。
もしかすれば誰かが近くを通った時、小窓からこぼれる光に気づいてくれるかもしれない。
まあこの体育倉庫を下校途中に通ることはまずないのだが。
「まさかこんな漫画みたいなことになるとはね」
「本当にね。よくある展開だったら、しばらく待てば誰かが助けに来てくれるはずだけど」
「茜ちゃんもいるし、大丈夫じゃない?」
考えてみればそんなに焦らなくても、案外早くに茜が来てくれるかもしれない。
閉じ込められたのが普段から何も言わずに夜遅くまで遊んでるような非行少年や少女だったらきっと家族も心配しないだろうが、俺やかおりは非行のひの字もないいたってまじめな生徒。
そんな俺たちが茜が帰ってからいつまでたっても帰ってこないとなったら、さすがにどうしたのかと思ってくれるはずだ。そうだと願いたい。
「まったく、あの男子余計なことしやがって……」
「まあまあ、告白が成功して浮かれてたんでしょ? 今日くらい許してあげようよ」
こんな状況だというのに、かおりは相変わらずにこにことしている。
「いや、むしろこんなとこに男と二人で閉じ込められたかおりの方が怒るべきだと思うんだけど……」
「まあ、男っていってもそうくんだしさ」
「一応俺も男なんですが……」
男子としてのプライドをズタズタにされながら、俺はまた大きく息を吐いた。
告白が成功したらしいことが分かって少しでも微笑ましいだなんて思った過去の自分が、なんとも憎い。
きっとあのカップルは、今頃手をつなぎながら二人で帰っているんだろう。
爆発すればいいのに。
そんな怒りをかみ殺して、俺は適当な話題をかおりに振る。
昨日と今日の球技大会のことやかおりが転校してくる前のこと、最近あった面白いこと。
思ってみれば、こんなに長い時間ただひたすらに話すということは今までになかったかもしれない。
何をするでもなく話すだけというのも、やってみるとどんどん話が広がっていく。
最初に話し始めたことから内容は逸れにそれて、それでも話は続いて。
気が付くと――。
「――あれ? もう八時前⁉」
「え? そんなに話してた?」
倉庫に閉じ込められてからもう三時間近くが経っていた。
今日中に外に出るのは無理かな……というような空気が二人の間を漂う。
そんな雰囲気を壊すように、かおりはやけに明るい声色で口を開いた。
「そういえばさ、あの二人はうまくいくのかな?」
「あの二人ってあのカップル?」
俺の質問に、かおりは黙ってうなずく。
「うーん……あのカップルがどうなるかは分からないけど、告白するっていうのはすごく勇気がいることだと思うんだよね。今までの関係が壊れちゃうかもしれないし。でもそれを今日したってことは、あの男子がそれだけ彼女のことを好きだったんじゃないかって、そう思うよ」
柄にもなくまじめな話をしてしまったが、かおりも何か考えるように少し俯いた。
「まあ、俺はしたことないからわかんないけどね。これからもできる気がしないし」
「え? それって――」
バタンッッ!
心なしか怪訝な顔つきを浮かべたかおりの言葉を遮るようにして、大きな金属音が響く。
「あー、やっぱここだったかー。ごめん、見回りするのすっかり忘れてた」
ゆっくりと外から開かれた扉の奥に立っていたのは、茜と私服姿の体育教師。
茜の顔からはてへっ、という音が聞こえてきそうだ。
「しっかりしてくれよ」
俺はお茶目に舌を出す姉の悪態をついて、立ち上がった。
「良かったね、今日中に出れて」
「うん……」
俺の言葉にかおりは歯切れの悪い返事をする。
茜は教師にいろいろと説教をされている。
「帰ろうか」
「……ん」
どこかそっけなくなったかおりはそれ以降、俺を家まで迎えに来なくなった。
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