第21話 なぜだかお隣さんに距離を置かれる。
「なあ、お前藤宮とまだ喧嘩してんのか?」
「だから、喧嘩とかそんなんじゃないって言ってんだろ」
「それにしたってな……」
球技大会で体育倉庫に閉じ込められたあの日から週も変わり今日は水曜日。
夏休みまで残すところ今日も含めてあと三日だ。
普通ならうきうき気分なはずの状況なのだが、今の俺は違った。
「奏太、本当に何も心当たりないのか?」
「だから、まったくもって思いつかないんだって」
俺を見てやれやれというような素振りを見せる亮に、溜息がこぼれる。
本当にどうしてこうなったんだよ。
かおりに距離を置かれる原因になったと思われるあの日。体育倉庫から外に出て、家に帰るまで、かおりはやはりどこかそっけなかった。
直接的になにが彼女をそうしたのかは分からなかったが、週が明けた月曜日、ほとんど習慣のようになっていた朝かおりに起こされるという幸せシチュエーションはやってこなかった。
それどころか今日までかおりは前のように話しかけてこないし、部屋に来たりもしない。
俺が話しかけてもそっけなく返事をするだけだった。
「そうは言ってもなんかしたんだろ? でなきゃあの藤宮がほとんどお前に話しかけないなんて絶対おかしい」
「あの藤宮ってどの藤宮だよ」
亮の言う通り、きっとなにかかおりの機嫌を損ねるようなことを俺がしてしまったのだとは思うのだが、如何せん心当たりが本当に微塵もない。
「まあ、もともとはこれが本来の形というか、あるべき関係性っちゃそうなのかもな。俺みたいなごくごく一般的な男子生徒とかおりみたいな美少女転校生がいつも一緒にいたなんてこと自体がそもそも普通じゃありえないことだし」
俺が言ったことはまさにその通りで、考えてみればちょっと昔仲が良かったからとはいっても、転校してきたばかりの頃からかおりの距離感はやけに近かった。
おかげで俺はクラス中の男子から殺意のこもった視線を向けられるし、内心は心臓が飛び出そうなほどどきどきするしで大変な思いもたくさんさせられたものだ。
それがなくなるというのなら、少しだけ……本当に少しだけ寂しくも感じるが、今の距離感というのも悪くはないのかもしれない。
かおりだっていつも俺と一緒にいると仲の良い女友達だってできないし、実際ここ何日かは何人かの女子と楽しそうにしている彼女を見ることが多くなった気がする。
きっとそのほうがいいんだと、客観的に見てもそう思う。
「お前ってやつはなんでそんなに卑屈というかなんというか……」
俺の考えを遮るように溜息を吐いた亮は、いつになくまじめな顔を浮かべた。
「いいか? 女子は少なくとも自分が嫌いな男に……つーか好きでもない男に四六時中ついて回ったりなんかしないんだよ。あるべき形だとかなんだとかそんなんじゃなくて、今の距離感でお前はいいのか? お前はどうしたいんだよ。普通だとか一般的にはだとか関係ないだろ? これはお前の、お前たちの問題なんだから」
「あ……あぁ」
亮がこんなに真剣な話をするのなんて、高校で出会ってから初めてかもしれない。
俺は口調の強さに一瞬気圧されたが、しかし亮がそれだけちゃんと俺のことを考えてを言ってくれてるんだということも理解できた。
「とりあえず明後日までに仲直りしないと、夏休みだからな? 下手すると一か月会えなくなるぞ?」
「分かってるよ。なんとかする」
なんとかできるのか。
今日の放課後を抜いたらあと二日しかない。
俺はかおりが転校してきてからのことを少しだけ思い返す。
家を行き来したり一緒に登下校をしたりしていたあの時間は、とても幸せなものだった。
まだ出会ってそれほど経っていない仲だなんて思えないほどに、どこか懐かしく感じる居心地のいい空間だった。
もう一度、あの頃の関係に。
俺は強く決心して、午後の授業は放課後に向けて眠ることにした。
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