第2話 お約束には間に合う
「いや~~~~~~~っ!!! 聞いてた話と違う!!!」
フリフリのレースがついたスカートを靡かせながら少女は叫ぶ。
それは世間では魔法少女といわれる。日本の日曜朝に子どもから大きな子どもまで絶大的な人気を誇る姿だった。
その横にはライオン型のぬいぐるみが地面を一生懸命駆ける。
「梨子っ! 戦わないと死んじゃうよ!」
「むりっ! 無理だって!! 私にはやっぱり無理なんだよ~!!」
流暢に日本語を喋るぬいぐるみが後ろを振り返る。
視線に映るのは速足で追いかけてくるかわいらしくデフォルメされた熊である。
しかし、その恰好とは裏腹に主食は動物であり、爪はコンクリートの壁をバターの様に切り裂くモンスター。
つい先ほどまで一般人だった梨子こと
熊のモンスターに怖くて動けず、死を覚悟しているところにライオン型のぬいぐるみの押し売りセールスマンと変わらぬ言葉に乗せられ魔法少女となり、身体能力が上がった今でも戦うのではなく、逃げるのを選んでしまうのは無理もない。
しかし、ライオン型のぬいぐるみは熊とは違い、世界を救う大義を背負った精霊だ。契約した以上その責務を果たしてもらうつもりだ。
優しく、状況に似合わない声色で梨子に語りかける。
「梨子ならできるはずだよ。大丈夫。……魔法の力でみんなを守るって梨子が言ったんだよ? このままじゃみんな、あのモンスターにやられちゃうよ?」
「うっっっ……でも……」
声色は優しいが言っている内容はほとんど強制である。
しかし、ライオン型のぬいぐるみも悪気があるわけではない。魔法と呼ばれる超常的な力を扱うには条件があり、それを満たしていたのが白鷺梨子だった。
過去に両親を事故で失った梨子は深い悲しみ経験しており、更には悲しみを乗り越え、前を向いた強い心。
悲しみを知り、強く純真な心。それは魔法には必要だった。
何よりも一番の条件であり、なかなか見つからなかった容姿が可愛いという条件も満たしていた。
そう、満たしてしまっていた。
上司の精霊から無理難題を突き付けられ、半ばあきらめていた時に現れた逸材。逃がすなどとてもできなかったライオン型のぬいぐるみは心を鬼にして彼女を口説いた。
そして、あっさりと釣れてしまった。
それはもう、心配になるぐらい簡単に釣れた。
よく騙されずに生きてきたと思えるぐらいに簡単だった。
本人のためにその時の状況はあえて伝えないが、白鷺梨子とは一言でいえばちょろいのだ。
「よ、よっし。やる。みんなのために私頑張る!」
そう言って振り返り、右手に持った杖を向けて魔法を唱える。
しかし、相手は速足で向かってくるとはいえ熊である。それもモンスターである。
梨子が魔法を唱えるよりも早く、鋭利な爪は彼女へと迫る。
「梨子っ!!」
「え……きゃっ!?」
迫る爪に反射的に目をつむり、再び死を覚悟していた少女はなかなか訪れないその時に薄らと目を開く。
「えっ……と、あれ?」
『ガウウウウッ!!!???』
熊のモンスターはうねり声を上げ、自慢の爪を軽々と受け止めるフルメイル姿の人物を威嚇する。
「悪いな。俺はやっぱり……誰かを守ろうとする側の味方だわ!」
そうフルメイルの中から若い男が呟く。
爪を受け止めていた腕とは逆の腕で熊のモンスターを軽く、弾く。
バチッ!!
まるで電気がショートしたかのような音が小さく鳴ったかと思うと熊のモンスターは姿を消す。
そして、梨子へとマントを翻し、怪我がないことを確認すると改めて発する。
「大丈夫みたいだな。よく分からないんだが、ここは日本でいいのか? 俺の知らないモノが溢れすぎてるから教えてくれるとありがたいんだが……」
「あ、……えと…その…………」
状況が理解できない梨子が金魚の様に口をパクパクさせて言葉を紡ごうとするがうまくいかず、それをみて照れくさそうに男は仮面の頬をかく。
「ただとは言わないさ。俺にできるなら君の守りたいものを手伝わせてほしい」
そう言って男は魔法少女へと手を差し出す。
ラスボス倒したヒーローが魔法少女の世界に行ったらこうなった リクルート @kurotubaki7
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