第6話 思いが夏咲く
伸びて伸びて
どこまで伸びる
咲くまで伸びる
ひまわりはまだ咲かない
8月にはきっと見頃だろう
伸びてずっと背が高くなった
ひまわりが咲く頃には私は引っ越しを終えるはず
この家を飛び出してどこか遠くに行くんだ
いつだってできたけどあの頃にはできなかった
電車で遠出するくらい、いつもすぐ帰ってきた
ちゃんと時々は帰ってくる
夏と冬にね
あー冬は寒いから夏だけ
花火大会は見に来るよ
そういえば酔っ払ったおじさんもかたっぽのサンダルの人も
ちゃんと家に帰れたんだろうか
家がなくなることだって今じゃ珍しくない
帰り道を思い出して
いる場所を求めてさまよう夜は
いい寝心地を求めて転がる夜は
思い返して苦しい夏は
思い出せずに楽しい夏は
花咲く夜に
花咲く夏に
思い思いに寝返りをうって
夏思いにふけり
夏咲くのは花だけじゃない
風に吹かれて雨に濡れて花が散る
頭から足先まで体中に花火が響く
伸びて伸びて伸びて花は咲く
いつのまにか私は考えなくなっていた
私は何をしたかったのだろう
誰かにいつか言われたことや
誰かのいつかの歌声や
いつかの小さな出来事や
いつかの大きな出来事や
明日が来ることに気を取られているうちに
昨日になってしまったことを嘆ているうちに
今日を過ぎていくことに忙しいうちに
忘れていた
出会いや時間や何かが解決してくれたわけじゃない
みんなの願いは叶わない
みんなの祈りは届かない
みんながいっぺんには咲かない
みんなみんなそれでも思い続ける
一生をかけて花を育てる
夏思いが咲く 新吉 @bottiti
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