第19話 俺の目的
いつものように、宿屋で手伝いをしていた。
配膳だけだった手伝いも、今では買い出しや掃除なども行い、まるで従業員の扱いだ。その代わり、おまけをしてくれたり、弁当を用意してもらえるので、文句はない。
レスは、見返りをもらっているせいか、わずかにしかもらえない。でも、徐々に貯まっていくので、目標まであともう少しだ。
「なんだお前、ここで働いていたのか?」
食堂の窓を拭いていると、後ろから声を掛けられた。もうそんな時間だったかと思い、俺は振り返る。
そこにいたのは、もちろんカーターとモリの2人だ。今日は4人で依頼を受けに行く予定で、2人が来たということはその時間になったという事だろう。
「カメリア、時間のようだ。おかみさんに伝えてくれ。」
返事をして、カメリアはおかみさんを探しに行ってしまう。残された俺は、嫌な気持ちが増した。
「おはっよー、セッキー!」
「・・・今日は、変な仮面をつけていないのですね。」
言葉の通り、2人は素顔をさらした姿だった。仮面をつけていると言葉が片言なので、こちらの方が聞きやすくて助かる。
「あー、あれは、翻訳機的なものだから~セキミヤには、私たちの言葉が通じるみたいだし、今回は必要ないってわけ。」
「仮面をかぶっていると視野が狭まるし、どっちにしろあの仮面をつけるのは町にいる間だけだったがな。」
「そうですか。」
翻訳機か。片言だとしても言葉が通じるのは羨ましい。
「お前の妖精も帰ってきたみたいだし、行くか。そういえば、名前はなんて言うんだ?」
「・・・行きましょうか。」
俺はなんとなく名前を教えたくなくって、無視した。
「あ、おいっ!・・・たく。」
「セッキー、だいぶ性格変わったよね。記憶がないからなのかな?」
後ろで好きに言われていたが、俺は振り返らずに宿を出た。
「あ・・・」
そして、気づいた。そう、目の前にいる、大荷物を抱えた男。彼はこちらに笑顔を向けている。
「・・・いや、前の俺とは違う。今ならカメリアを通して断れるはず!」
最近は逃げ足を使って、町の面倒ごとは避けていた。なぜなら、宿屋の手伝いとギルドの落とし物拾いで十分と判断したからだ。
ちなみに、落とし物拾いは避けようがないイベントだが、レスはあまり貯まらない。なので、まじめに教会で解呪をしてもらってくれと思っている。きっと、ギルドは呪われていると思う。あんなに落とし物をして・・・
「か、カメリア。今日は急ぎだから手伝えないと伝えてくれ。・・・え?」
なぜかカメリアは、男と話を付けていた。気を利かせて断ってくれたのかと思いきや、男の表情を見ればその逆だとわかる。手伝いを受けやがった。
「どうしたの、セッキー?早く行くよ?」
「・・・悪いが、カメ・・・妖精の奴が、あの男の手伝いを引き受け・・・てしまったようです。手伝いを終えてからでもよろしいですか?」
口調が素に戻っていたことに気づいて、俺は慌てて他人行儀に戻す。
「・・・」
黙り込んだ2人だったが、すぐに笑ってお前らしいと言った。
「やっぱ、変わらないな。根っこの方は・・・俺も手伝うぜ、セキミヤ!」
「はーい!私も!こうして、色々な人の手伝いをしたよねー。懐かしい~」
2人は男の荷物を一部持って、カメリアを先頭に歩き出した。俺は動けない。
その光景を、懐かしいと感じた。胸が温かくなるのと同じくらい、胸が苦しい。
もう、やめてくれ。
なんで、あいつらと過ごす日々は、あんなに楽しかったんだ?なんで、離れるのがあんなに苦しかったんだ?どうして、俺だけが・・・あそこに残ることを望んで、お前たちは望んでくれなかったんだ?
俺だけが、あの仲間の絆を永遠にしたかった・・・あの時間を永遠に。
「セッキー?」
「セキミヤ?」
ついてこない俺を不思議に思ったのだろう。みんながこちらに視線をよこした。
「・・・わりぃ、ちょっと立ち眩みが・・・もう、大丈夫だ。」
かなり無理な言い訳だったが、みんなは疑うことなく心配そうな顔をするだけだった。それが俺の胸を苦しめる。
俺は、仲間じゃなかった。そうじゃないのか?
「さ、行きましょう。」
俺は残った荷物を持ち上げて、軽く言った。そうすれば、安心した様子でみんなも動き出す。
それから、迷子探し、おつかい、店番などを頼まれた。町の外に出るのも一苦労だと思いながら、やっと門の前に着けば、また荷物の男がいた。笑う男を見て、苦笑しながらもみんなで荷物を運んであげる。
荷物は、町はずれにある丘に建てた小屋まで運んだ。
丘は、さまざまな花が咲いて、綺麗な場所だった。
さすがに、ここまで手伝わせてしまったことに罪悪感があり、俺は2人に謝った。
「すみません、結局依頼の話もまだ聞いていませんね。今からでも間に合いますか?」
まだ明るいが、昼は過ぎている。行く場所によっては、着くころには夜になるかもしれない。ま、日帰りの依頼を選んだはずなので、それはないだろうが。
「いいよ。依頼は後日、俺たちだけでやるから。・・・もう、十分だ。」
「そうだね。いい思い出になったよ。ありがとう、セッキー。」
「いい思い出?」
カーターとモリは、顔を合わせて苦笑いをした。
「セッキーが・・・記憶喪失を装ってまで、ウチたちと関わりたくないなら・・・ウチらはもう関わらない。」
「そういうことだ。」
「それは・・・」
どうやら、俺の嘘はばれていたようだ。
「お前は顔に出るからな。」
「・・・怒らないのか?」
穏やかな顔でそういう2人に、怒っている様子はなかった。俺が嘘をついたというのに。
「あぁ。ていうか、なんで怒るんだよ・・・俺達に怒る資格なんてない。止める権利もな。」
「うん、だから・・・さようなら。」
悲しげに言った2人は、懐から取り出した仮面を付けて、こちらに背中を向けた。
「元気でな。転移。」
カーターが呟いた途端、2人の姿は一瞬にして消えた。
俺の前を、一陣の風が吹き、寒く感じた。
「・・・帰るぞ、カメリア。」
これで、面倒ごとはなくなった。でも、心は晴れず、曇っていた。
宿に戻ると、俺はカメリアに今後の方針を話した。
「あいつらも帰ったことだし、俺はそろそろカメリアを中心とした戦い方をしたいと思っている。俺ばかりが敵を倒しても、カメリアの経験にならないからな。」
本当は、危険なことをさせたくないし、傷を作ることなんてもってのほかだと思っている。でも、それがカメリアの願いだというのなら、そうするしかない。
「強くなろう、カメリア。あなたの努力が報われる時が来たんだ。」
俺はそう言って、レスのスキル画面を出して、カメリアにスキルを習得させる。これこそ、俺が待ち望んだ瞬間だ。
「物理攻撃無効化・・・マックス!」
カメリアの方から悲鳴が上がった。それもそうだろう、このスキルは50レスを消費するスキルだ。しかし、無効化スキルが50レスとは、安いと思うだろう。俺も思ったのだが、詳細を見れば、50レスなのも頷ける。
無効化とは、完全に無効化するわけではない。詳細には、50無効化などと書かれていて、攻撃力を数字にして、その分は無かったことにしますよ、というスキルだ。
たとえば、ベア種の攻撃力が80だとしたら、50無効化の場合は、30のダメージを受けることになる。でも、おいしいスキルなことに変わりはない。
「おそらく、アント種の攻撃なんて、全く通じなくなるだろうな。俺、こういうの好きなんだ。」
敵の攻撃は全くこちらにダメージがないのに、こちらの攻撃は敵にダメージを与える。優越感を感じるのもそうだが、痛くないのは本当にいい。
痛いのは慣れたが、痛いものは俺だって痛い。ま、俺に付けたスキルじゃないけどな。
もちろん、カメリアに取得させたので、俺には何の恩恵もない。だが、これのおかげで弱い攻撃を俺に誘導させる必要がなくなる。そう考えれば、俺にも恩恵があったな。
カメリアがスキル画面を覗こうとしたので、俺は閉じた。
「これで、カメリアも攻撃がしやすくなるだろ?ここら辺にいる魔物は、基本物理攻撃だ。攻撃力を数字にすることは、俺にはできないからわからないが、ある程度攻撃は防げると思っている。もう少しレスを貯めたら、魔法攻撃無効化も取りたいものだ。」
でも、なんで無効化なのか。無効化ってことは、どれだけ攻撃されても効果がないという意味に見える。だが実際は、耐性があるに過ぎないんだよな。
「難しく考える必要はないか。そういうものだ。さ、今日はもう寝るか。」
俺はベッドに横になって、目をつぶった。
レスだが、カメリアに言ってないだけで、だいぶ貯まっていた。もらえる量が少ないレスだって、あれだけイベントがあれば、貯まる。
だけど、俺は自動翻訳を取らなかった。
俺自身にレスを使うべきだとは思っている。でも、なぜか使えないでいて、それでも、いつでも使えるように、40レスを残してカメリアに使った。
それはなぜか。
たぶん、怖いからだ。今の関係が壊れてしまうのではないか?そんな馬鹿なことを考えてしまうのだ。
言葉が通じないから仕方がない。俺もカメリアもお互いにそう思っている部分はあるだろう。それで我慢できていたことが、言葉を交わせるようになったら、我慢できないかもしれない。
カメリアと話したい。もっとカメリアのことを知りたいし、俺のことも知って欲しい。そして、今より絆を深めて、理想の仲間になりたい。
でも、怖い。
だから、俺はレスを余分に残すだけで使わない。
情けない奴だ。
次の日、俺たちは森にいた。ギルドで、再びベア一家の討伐依頼が出ていたので、それを受けたのだ。もちろん、この前のベア一家とは別のベア種だ。
今回は、成体2体、幼体3体と、前に比べれば大家族だ。ま、2体増えただけだが。
問題なく巣を見つけて、討伐した。今回は、カメリアに成体2体を相手にしてもらい、俺は幼体3体を瞬殺した。
カメリアは、アイスボールだけで、成体を倒した。
「お疲れ様。それにしても、アイスボールって下級魔法なんだよな?よくここまでの効果が表れるよな。」
表面がうっすら氷づいているベア種を見て、感心をした。この世界の魔法は、これだけ強力なのかと疑問に思った。
前の世界では、下級魔法の中にアイスボールはあったが、ここまでの威力はなく、ちょっと冷たいボール投げられているな、程度の攻撃だ。確かにダメージはあるが、体が氷づくほどではない。
「これが普通なのか?」
そう聞けば、カメリアはわからないという顔をした。おそらく、周りと自分の力を見比べたりなどはしなかったのだろう。
「ま、知らないなら仕方ないか。解体。」
スキルで、カメリアの倒したベア種を解体した。もちろん、討伐証明部位はあらかじめ斬り落とし、回収してある。
カメリアは、何事か言って、洞窟の外へと向かう。血の匂いに参ったのだろう。俺のせいだな。
瞬殺してすぐに解体したとはいえ、血は噴き出るので、辺りは汚れていた。血の臭いが巣に充満する程度には。
対照的に、カメリアの倒したベア種は、血で汚している部分が少ない。
「セキミヤ!・・・!!!!!」
俺の名を呼び、何事か叫んだカメリアの声を聞き、俺は急いで洞窟を出て剣を抜いた。
「カメリア!」
そこには、鎧武者に踏みつぶされたカメリアの姿があった。その光景に、目の前が真っ赤になる。
「この、さび鎧がっ!」
俺は、走って鎧武者に向かう。だが、突然男が俺の前に現れ、俺はその男に剣を横に振るったが、受け止められた。予想はしていたので、取り乱しはしない。
俺は、男をよけて、踏み出そうとしたが、様子をうかがうことになった。
鎧武者の周りには、数人の男。統一性のある白の服を着ている男たちは、おそらくどこかに所属している者たちなのだろう。鎧武者を囲み、一斉に攻撃をする。
鎧武者は、よく見れば前にベア一家討伐の依頼中に襲ってきた奴だった。
鎧と鎧の隙間を狙って、周りの男たちは剣で鎧武者を突き刺す。剣が突き刺さったままでも、鎧武者は剣を振りかざしたが、全く効いていないようだ。
まるで剣は実体がないように、男たちの体をすり抜けた。
「まさか、まだアッタクルーズの効果が切れていないのか?」
前回対峙した時に、カメリアが鎧武者に使ったスキルだ。あれから何日も経ったというのに、いまだに鎧武者は攻撃力がないようだ。
どさっ。
俺の剣を先ほど受けた男が倒れた。
男と剣を交えたとき、男に剣を伝って衝撃波が襲うようにしたのだ。これは、前の世界で城の騎士団長に教えてもらった技だ。弱い相手だと、こうやって倒れこんでしまうような技で便利なものだと思っている。
そんな倒れこんだ男や俺、鎧武者たちから少し離れた場所に、一人の男がいた。おそらく、この男が白い服装の男たちのリーダーだろう。
リーダーらしき人物が声をあげれば、鎧武者を囲っていた男たちは、一斉に離れた。カメリアは、いまだに鎧武者に踏まれている。ダメージはないようだが、動けないようだ。
「カメリア!」
まずい。リーダーらしき男は、何かの魔法を放とうとしている。それは、とてつもない威力を持つものだと予想ができてしまう代物。あんなのを鎧武者に放てば、鎧武者に踏まれているカメリアも巻き込まれてしまう。
あれは、魔法だ。カメリアに昨日取得させたスキルは、物理攻撃無効化。魔法は効果がない。今から取得させようにもレスは足りないし、取得したとしても、不完全な名前だけの無効化などに意味はあるのか?
どうすればいい?
魔法が放たれた。このままでは、カメリアが死ぬかもしれない。
鎧武者に攻撃された時と同じだ。
「いや、同じじゃない。」
俺は動ける。鎧武者に攻撃されたときと違って、動ける!
「・・・」
一瞬だけ、迷ってしまった。迷うことは、愚かなことだ。迷うことで使った時間は取り戻せないし、その時間のせいで選択肢が消えることだってあるのだ。
でも、今は違った。すべてがスローモーションで動き出し、俺が迷いに使った一瞬は、何の問題もなかった。良かったと安堵する。
その一瞬で、俺の脳に刻まれた20数年間が蘇って、それでも俺は覚悟を決められた。
「誘導!」
俺の半径25メートル範囲内にあった、鎧武者を飲み込むはずだった魔法は、方向転換して俺に向かってくる。
俺のスキルに、もう命綱はない。もしも、あれが俺の命を奪うほどの魔法なら、俺は死ぬ。それでも、カメリアを守りたい。これが、俺の選択だ。
カメリアの方を見れば、彼女は目を見開いて何事か叫んだ。俺は、それを見て自然と微笑んだ。
それを見たカメリアの目に、怒りが読み取れたが、もう遅い。ま、もしもこの攻撃も生きていたら、その時は痛くもないその手で殴ってもらおう。
魔法の光が、俺を包み込んだ。
衝撃も痛みもなく、あるのはただ光に包まれたという感覚だけだ。そして、光は消える。
ただ、立ち尽くす俺を、その場の全員が驚きの表情で見ていた。
「・・・痛くない。」
死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。それぐらいは予想していたが、無傷とは予想外だった。
この場で一番最初に動き出したのは、鎧武者だ。前とは違って、踵を返すとものすごいスピードで、森の奥へと消えて行った。すぐに周りの男たちは気づいて追うが、おそらく捕まらないのではないかと思う。
そして、残ったリーダー格の男が、いまだに地面に転がってこちらを見つめるカメリアに近づく。俺は即座に反応して、カメリアと男の間に割り込んだ。
男は何事か怒鳴り散らしているが、わからない。
「まずいな。」
リーダー格の男は、いや男たちは、どこかの大きな組織の所属だと思う。だとしたら、そのような組織に目を付けられるのは厄介だ。
「カメリア、動けるか?」
俺の声に反応して、カメリアは立ち上がったが、目の前の男に怒鳴られその動きを止めた。
もう、腹をくくるしかないだろう。
俺は、レスのスキル画面を出し、自動翻訳を取得した。そして、剣で斬りかかろうとする男に声を掛けた。
「これで、通じる、か?」
男の動きがとまる。それを見計らって、自動翻訳のレベルを上げられるだけ上げた。
「俺の言葉は、通じるか?」
「あぁ。通じている。」
剣は握ったままだが、男は話をするつもりはあるらしく、答えてくれた。
「俺にも通じている。今まで、お前たちが言っていた言葉は、俺には通じていなかった。だから、最初から説明してくれないか?」
「・・・そのようだな。」
男は剣を鞘に納めると、ため息をつく。
「セキミヤ、あんた自動翻訳を取得したのね。なんで、もっと早く取得しなかったのよ、馬鹿。」
「・・・悪かった。でも、それは後にしよう。今は、この状況を把握しなければならないからな。」
「それもそうね。」
それからカメリアは黙り込んだ。
そして、それを見計らって、目の前の男は話し出す。
「まずは、自己紹介をする。俺は、王国騎士団副団長のガルドだ。そちらは?」
いかつい名前だ。どこかのお坊ちゃんのような、線の細い男だというのに。それにしても、王国騎士団とは面倒だな。
「俺は・・・冒険者のセキミヤ。あーランクは、銅だ。」
一応、タグを見やすいように出した。
「銅だと・・・ま、いいだろう。状況がわかっていないようだが、お前たちは魔王の四天王の一人を倒す機会を邪魔したのだ。それがいかに罪深いことか、説明しなくてもわかるだろう。なぜ、邪魔をした?」
どうやら鎧武者は、四天王だったらしい。可能性は考えていたが、まさか本当に四天王だとは。スタート地点が危険すぎるだろ!
「俺の仲間が、巻き添えになるところだった。だから邪魔しただけだ。」
「そこの妖精一匹の命と、魔王の四天王を倒す任務、どちらが重要かわからないわけでもないだろう。」
「あぁ、もちろんだ。」
「ならば、それ相応の罰は受けてもらう。覚悟しておけ。」
冷たく凍えるような瞳で睨むガルドだが、俺はそれを鼻で笑った。
「それは、こっちのセリフだ。四天王を倒すためとか、くだらない理由でカメリアの命を脅かした罪、命だけで済むと思うなよ。」
殺気をのせて、ガルドに言い放てば、前と後ろから同時に驚いた気配を感じた。カメリア、なんでお前が驚くんだよ。
「どうやら、事の重大さがわかっていないようだな。」
ガルドが剣を再び抜いた。俺も同時に剣を抜く。
「お前の方がな。」
俺はこの男に勝てるか?なんとなく鑑定をした。
長ったらしい名前の後には、人間という文字と王国騎士副団長の文字。ただの、副団長だ。それは、この世界では凄いことなのだろう。でも、俺には到底そうは思えない。
俺が勝つ。
魔王を共に倒した仲間は、もういない。でも、こいつは魔王なんて比べようもないほどに弱い。俺だけでも勝てる。
こいつを殺して、戻ってきた騎士たちを殺して、全てあの鎧武者のせいにしよう。元勇者とは思えないようなことを考えた俺は、すぐに行動に移そうとしてやめた。それは、2つの人影が見えたから。
「やめるんだ!2人供!」
俺たちを止めたのは、仮面を取った、カーターだった。
「やめる!命令!」
続いて、仮面をした状態のモリが叫ぶ。これは、ガルドに対して言ったのだろう。ガルドは不満そうにしながらも、剣を収めた。
俺も、剣を握らない騎士を斬る趣味はないので、剣をしまった。
カーターとモリの登場で、その場は収められた。
その後カメリアは気を失い、俺は気づいたのだ。カメリアはアッタクルーズを使ったのだと。どこに使ったかといえば、考えられるのは一つ。
ガルドの放った魔法に使ったのだろう。だから、俺は助かった。
それから、目覚めたカメリアから事情を聞き、鎧武者の目的とアッタクルーズを使ったことがわかった。
鎧武者の目的は、カメリアだった。カメリアが鎧武者にスキルを使ったせいで、鎧武者の攻撃力はなくなってしまった。それに気づいた鎧武者が、カメリアにどういうことか吐かせるために、俺たちを襲ったのだ。
ガルドたちは、そんな鎧武者を追って、この森に来た。
そして、あの現場に出くわしたというわけだ。
俺は、カーターと宿屋の食堂で顔を合わせていた。
「セキミヤ、俺は勇者になったんだ。」
「そのようだな。」
「やっぱ知っていたか。」
「・・・まぁな。」
鑑定スキルがあるし、当然のことだ。ま、鑑定スキルは万能ではないし。すべての称号が見えるわけではないが、カーターの嫉妬の勇者の称号は見えた。
「・・・それでも。俺は、やっぱりお前が勇者になるべきだと思う。お前の方がふさわしいと思うんだ。だめか?」
大事な話があるからと聞いてやったが、こんな話だったのか。時間の無駄だったな。
「お断りだ。それにカーター・・・俺は、お前が勇者にふさわしくないとは思わない。お前は、この世界で勇者になればいい。」
俺は席を立つ。黙って聞いていたカメリアも、俺の肩のあたりまで飛んだ。
「それに、俺は世界を救うためにこの世界に来たわけじゃない。俺には俺の目的があるんだ。だから、さようなら。」
俺はそのまま立ち去った。俺の背中に、カーターも別れの挨拶をかける。
俺の後ろをついてきたカメリアが、俺を呼び止めた。
「セキミヤ、あんたはなんのために、この世界に来たのよ?」
「・・・そんなの決まっている。わからないのか?」
「わかるわけがないじゃない!それで、なんなのよ?」
俺は、一度深呼吸をしてから、よどみなく答えた。
「妖精を・・・カメリアを育てるためだ。」
リアルデス 世界を救うより、妖精を育てよう 製作する黒猫 @seisakusurukuroneko
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