31話 今日生まれたんです。

誕生日ってさ

学生の時は嬉しかったけど

大人になっちゃうと


あー、また一つ年とるのかあ。


って感じだよね。



会社の同僚が横でそんな話をしている。








私はそうは思わない。




誕生日はいくつになっても嬉しい。

アラサーだって嬉しい。



毎年、誕生日が近づくとワクワクする。

毎年、誕生日当日はプレゼントをもらえるかドキドキする。

毎年、プレゼントをもらったらウキウキする。



ワクワクでドキドキでウキウキなアラサーなのだ。


我ながら子煩悩だと思う。

そんなことを思いながら

私は仕事をしている。







正確に言うと。






今日が誕生日の私は

ドキドキしながら仕事をしている。










嬉しいことに去年までは

同僚の数人がプレゼントをくれた。




なぜだ。


今年はまだ誰もくれない。


私はいつまでドキドキしていればいいのだ。

早くウキウキに移行したいんだが。


私はドギマギしていた。


横ではまだ誕生日の話をしている。

私へのあてつけに聞こえてきた。


私はイライラしてきた。


そのイライラを悟られないように

横の同僚に静かに仕事しろと注意。


なんだがむなしい。







そのまま終業の時間。


結局、誰からもプレゼントをもらえなかった。

周りも帰り支度を始めていた。



なぜだ。去年と何が違う。


みんな忘れてるのか。

いや、忘れていても当然だが。




うん。やめよう。

考えていても悲しくなるだけだと

気づいた私は会社を後にした。





帰り道。


コンビニで小さなケーキと

いつもよりいいビールと豪華なつまみを買い

一人でそれらを堪能した。


その頃には

ワクワクもドキドキもドギマギもイライラも

私の心にはなかった。




さあ寝よう。






そう思った時、スマホが鳴った。

ラインの通知音だ。

さっきまでなにもなかった心が

急に高鳴りだす。



そう、ワクワクだ。




ラインで一文。

誕生日おめでとう。






それがあれば私はウキウキできる。

その高ぶった勢いのままスマホを開く。









誕生日おめでとう。









期待した一文がそこにはあった。









母からの。






うん。ありがとう。

ウキウキというより素直な感謝しかでてこなかった。


感謝だけ伝え

私はそのまま寝た。







翌日。

出社した私に同僚たちが誕生日プレゼントをくれた。


今日誕生日だよね。

おめでとう。










うん。ありがとう。

また素直な感謝しかでてこなかった。


来年からドキドキする日が

一日増えてしまった。

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ただの男、中村。 古谷茶色 @furucha

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