第2話

「あっ、ああ!!」


しばらくして、突然興奮気味の大声が上がった。

その声の主は先ほど『クリス』と呼ばれた少年。

水平線の彼方を食い入るように見つめていた、2人の内の1人だ。

彼がこの中で一番の年上である。

先頭に立って懸命に海を眺めていた彼だったが、今はその顔に満面の笑みが浮かんでいる。


「見えた!見えたよラッチェ!」


クリスがそのまま勢い良く後ろを振り返る。


だが、彼の背丈が飛び抜けて高いのがいけなかった。

残りの2人はクリスの大きな背中に寄りかかっており、ほとんど全ての体重をそこに預けていたのだ。


「うわあっ!?」


彼が振り向いた拍子に、寄りかかるものをなくした2人が前に倒れこんでしまう。


「おっと、ごめんね2人とも。大丈夫?」


クリスはその悲鳴で我に返ったのか、慌てて地面に伏している2人を助け起こした。


「もう!痛いよ、クリス」

「ねえラッチェ...俺、君のその石みたいに硬い頭に思いっきり顎ぶつけたんだけど」


ラッチェともう1人の少年は文句を言いつつも、少し決まりが悪そうにクリスの両手を片方ずつ借りて起き上がった。


「それよりも!ねえクリス、見えたの?」


3人の中では一番幼いラッチェという少年が、立ち上がるやいなやクリスの方をキラキラした目で見つめてくる。

好奇心溢れる、幼子だけが持つ目だ。


「はっきり見えたよ。こっちにおいで、ラッチェ」


クリスは自信満々な様子で強く頷くと、小さなラッチェの手を引いて先ほど自分が立っていた場所まで連れてきた。


「どこどこ?」


ラッチェが懸命にぴょんぴょんと飛び跳ねながら、眼前の海原を見渡そうとする。


「あはは、いくら跳んだってそれっぽっちじゃ、ちっとも船が見えないだろう。ほうら!」


自分の小さな体を少しでも高い所へやろうとしているその姿が健気に思えて、クリスはラッチェを肩車してやった。


「わああ...」


ラッチェが感嘆のため息を漏らしたのを感じる。



「どうだい、見えるか?」


自分の首にしっかり巻き付いた細い足を少しずつずらしながら、クリスは頭上に向かって問いかけた。


「すごい!ここからだと、とってもよく見えるよ!ありがとう、クリス」


喜びに弾むラッチェの高い声が降ってくる。頑張って探した甲斐があったと、クリスの方も満足気に目を細める。

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Ruine 金柑 @wartermarginlove

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