第23話少しゆっくりと天使

「呼んだ?」


ポップでキュート効果音と共に、僕の背中に何かが張り付いた。

色彩薄め、白色ベースのキャラクター。

天使のような輪っかと、

キューピット的な小さな弓矢を携えて。


「お困りの様子だけれど、どうしたんだい?」


天使のような笑顔で、

僕と同じ声と同じ顔のこの方は微笑みかける。


「おう、久しぶりだな。この野郎」


ぶっきらぼうな口調で、虫歯菌ライクのあいつが声をかける。

時々、この天使ライクな僕とあいつが同時に現れる時がある。

ごく稀に、だけれど。

今回はそのレアケースらしい。


だけれど、助かった。

暴走したあいつを止められるのは、この方しかいない。

天使的論法で、欲望の権化を抑えつけてください。


「残念ながら、それは無理だね。今回ばっかりは、とっても不愉快だけれど彼が正しいよ」


「お、珍しいな。お前が俺に同意するなんて」


「僕は君が嫌いで気に入らないけれど、だからと言って君の意見を全て否定する訳じゃない。あくまで正しいことは正しいと言う、それが僕という存在さ」


ぱたぱたと小さい翼をはためかし、僕の前でホバリング。


「話は聞かせてもらってたけどさ、君は今動かなかったらいつ動くつもりなのかな」


僕の声で、天使ライクな僕は尋ねる。


「次のデート?それともその次?そうやってタイミングを延期し続けて至る先に、君の望む結果はあるのかな?」


そ、それはーー


「君は何を恐れている?何が足りないと思ってる?過ごした時間、告白のタイミング、彼女に見合う自分。それらはさ、次に延期したところで、実現するものなのかな」


け、けどーー


「準備は大事だ。そこの虫歯菌もどきみたいに、欲望にただ従って動くのは愚かで哀れの極みだけれど……その準備はいつ終わるのかな?その準備のコストパフォーマンス、きちんと計算してる?」


で、でもーー


「言葉に詰まるということは、できていないんだよ。そもそも、できるわけないしね。統計学的に算出することも可能ではあるけれど、あまり意味のない計算式と結果になる。恋愛は人対人だ。統計では測りきれない。あくまで一般論止まり。たくさんの人に対して好感をもたれる手段を提供することは可能だろうが、目の前の彼女を落とす手段は計算できない」


そう、かもしれないけれどーー


「確実を求めてはいけない。人生はギャンブルの連続だ。失敗を恐れてはいけない。人生は恥の連続だ。それに、なにかい。君が確実に成功できると思うには、彼女はどんな行動を君に見せればいい?」


え、えっとーー


「まさか相手から抱きついてくるとか、好き好きーって擦り寄ってくるとか、終いには股でも開くとか言うのではないよね。それは物語のキャラクターだ。人はそんな分かりやすく動かないし、先の言葉でも彼女にとっては勇気を出した発言だと思うよ」


だから、と僕の肩にとまる。


「君も勇気を出して、一歩踏み出せ。大丈夫、言葉のナイフは傷つくけれど、即死はしない」


僕は呼吸を整え、

彼女に相対する。


艶のある黒髪が、小首を傾げる仕草と共に揺れる。

黒目がちな瞳が、僕を見つめる。

あぁ、可愛いな。

抱きしめたい。

抱きつきたい。

触れていたい。


「あのさっ」


僕は、一歩を踏み出した。

その時の口説き文句は、恥ずかしいので言えない。

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僕や私の天使と悪魔 虹色 @nococox

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