第14話 結末そしてその後
俺とチャンドラとルナ、それと武装した二十五体のホムンクルスとアンドロイドの混成軍が、ルナ教本部を制圧するため、神殿へ転移して来たときには、既に事態は終わっていた。
それもそうだろう。俺が行方不明になった時点で、カグヤが黙っているはずがない。
カグヤ、パトラ、ワンユの三人で大暴れ、ブリジットとティモカが小暴れして、ルナ教本部を制圧してしまったのだ。
月世界で地球育ちのカグヤに敵う者は、魔法でも体力面でもいない。
転移した先の神殿も、今は元神殿である。屋根も壁もなく、かろうじて柱が何本か立っているだけで、ここが神殿であったかわからない状態だ。いくら何でもやり過ぎだろう。
俺たちが転移すると、そこにはカグヤとワンユがいた。カグヤ達は咄嗟に戦闘態勢をとったが、俺が無事だと分かると、すぐに駆け寄って来た。そして、俺はそのままカグヤに抱きしめられた。
「ツキヒロ。心配したわ。どこも怪我はない」
「お母様。心配かけてごめんなさい。どこも怪我はありませんから、安心してください」
「ツキヒロ様、ご無事で何よりです。して、彼女らは何者です。見慣れぬ格好の者もおりますが」
ワンユはまだ警戒を解いていない様である。
「ルナ様と小さいのが神子のチャンドラ。後ろの武装したのは、ホムンクルスとアンドロイドだよ」
「あれがルナ。それとホムンクルスとアンドロイド?」
「まあ、仲間になったから大丈夫だよ。彼女たちとルナ教本部の制圧に来たんだけど、先を越されちゃったな」
「ルナと神子がルナ教本部の制圧ですか」
「ルナ様は勝手に名前を使われただけだし、神子も騙されていたみたいだよ」
「そうですか」
ワンユと話していると、カグヤが抱きしめるのをやめて、ルナたちの方を見ている。
「男がいる」
「お母様、ちょっと待って」
カグヤはルナが男だと気付いたのか。
やばい。ルナは女性恐怖症だ、カグヤがいつもの調子で近付いたら大変なことになる。止めなければ。
何とか止めようとするが、カグヤは俺の制止を擦り抜け走り出してしまう。
「オトコー。男がいるわ」
カグヤを見てルナが身を竦める。
危ないと思ったが、カグヤはその脇も擦り抜ける。そのまま走って、後ろにいたホムンクルスの一人に抱き付いた。
「男が五人もいる。これは夢。夢の楽園なの」
カグヤは大興奮である。
「なんか拍子抜けね。これから戦闘があると覚悟を決めて来てみれば、既に終わっているなんて」
チャンドラが近寄ってきて声をかけてきた。
「違うよ。チャンドラにとってはこれからが始まりだよ。チャンドラが中心になって、ルナ教をまとめて行かなければならないのだから」
「私には荷が重そうだわ」
「僕も出来ることが有れば協力するよ。だから頑張って」
「そうね。ツキヒロが協力してくれるなら、どうにかなりそうな気がするわ」
チャンドラは何故か、俺と腕を絡めるのだった。
その後、カグヤとルナ教との間で話し合いが行われた。
その結果、ルナ教は、チャンドラをトップに改革していくこととなった。
今までの、「男はいらないもの」という教義は、ルナの本意ではなく。「女と男の区別はいらない」というルナの言葉を、教団幹部が私利私欲のために湾曲して伝えた、間違った教義であるとした。
その上で、本来ルナが目指していた「男女区別なく愛し合う世界」を新しい教義として再出発することとなった。
勿論、俺に対する殺害命令も取り消され、教義を成すための貴重な男性として、むしろ敬われる様になった。
カグヤも、今までのルナ教の行いは幹部を罰することで水に流し、教団の改革に力を貸すと約束した。その代わりとして、ホムンクルスを借り受けることになった。
今では、何体かが交代で、アルキメデスにある俺の屋敷に常駐している。
夜になるとカグヤが男性型のホムンクルスを、毎日の様に自室に連れ込んでいた。今日の相手は眼鏡をかけたよんさんだ。今頃、お楽しみのことだろう。
お楽しみなのはカグヤだけではない。かく言う俺もお楽しみ中だ。
今日のお相手は、ウサギの獣人型のミミ、オオカミの獣人型にミヨン、ネコの獣人型のミーゴの三体だ。
獣耳三獣士である。
獣耳と尻尾がたまりません。モフモフ最高。
そんな最高の日々を送りながら、その合間に、時々はルナ教改革の手伝いをし、チャンドラとの親交を深める日が続いた。
勿論、ルナとは出来るだけ出くわさない様に気を付けながらである。
だが、今は久方ぶりにルナと対面している。場所はルナ教神殿地下の研究室である。そう、ルナと初めて会った場所だ。
「会えなくなるのは寂しいけど、十年なんてあっという間だから待っててね」
ルナは俺の手を握りながら涙ながらに言ってくる。
それは、寝ている人にしてみればあっという間だろう。
「ああ、十年後にはツキヒロはどんな男になっているのかしら。今から十年後が楽しみだわ」
ルナ教の改革も一区切りつき、ルナは俺が大人になるまでの十年間、眠りにつくことになった。
「ツキヒロが成長していく姿を見守れないのは残念だけど。ツキヒロとの年齢差を縮めるためには必要なことなのよ。このまま十年待っていたら、私おばさんになってしまうもの」
ルナの年齢は何歳になるのだろう。寝ている間を加算すれば千歳を超えている。おばさんを超えておばあさんも通り越している。
「ツキヒロも寂しいと思うけど我慢してね」
「大丈夫、チャンドラ達もいるし、寂しくないから」
とういか、清々するから。
「チャンドラ、ツキヒロのことよろしくね」
「わかりましたルナ様。私が身をもってツキヒロが寂しくない様に相手をしますので、安心してお休みください」
「任せたわよ。・・・でもやっぱり心配だわ」
「ルナ様、そろそろお時間です」
「ミレイ・・・。わかったわ。それじゃあツキヒロおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
こうして、ルナは人体保管用次元貯蔵庫で眠りについたのだった。
「やっと寝たか」
「ツキヒロが見送りに来るとは思わなかったわ」
「そんなことないよ。しばらく会えないからね」
「あら、ルナ様を散々避けていたから、てっきり嫌っているのかと思ったわ」
「嫌っているというか、見つめられると悪寒が走る感じなんだけど」
「それでも、十年会えないとなると見送りたいと思うものなのね」
「十年じゃないからな。もしかしたらこれが最後かもしれない」
「ツキヒロはどこか遠くへ行くの」
「僕は行かないよ。ルナ様に行ってもらうのさ。百年後の世界に」
俺はミレイを見て合図をする。
ミレイが操作板を操作し、数値を変更する。
「何をしたの」
「ミレイに、ルナ様が起きる時間を十年後から百年後に変更させたんだ」
「ミレイ、なんで」
「ルナ様が理想とした世界は十年後では実現していません。せめて百年後、男性がもっと増えた世界でないと」
「だけど」
「そうだぞ、チャンドラ。僕たちの孫や曾孫の時代にならないと、ルナ様の目指した世界は実現できない」
俺はチャンドラの肩に手を回し抱き寄せる。
「私たちの孫・・・」
「ルナ様が寝ている間、僕が寂しくなったら、チャンドラが身をもって相手をしてくれるんだろ」
「それは・・・」
「チャンドラの子供は可愛いだろうな」
「・・・男の子」
「ん?」
「男の子が三人は欲しいわ」
チャンドラは真っ赤になって俯いた。
「そうか、そうか」
チャンドラはチョロインだった。
こうして俺はルナの封印に成功するのだった。
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ルナ教編 完
かぐや姫の息子に転生したら、そこは女だけの月世界だった。これってハーレム? なつきコイン @NaCO-kaku
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