第26話 革命の銃
戦場南側の町では、猛獣部隊が牙をむいていた。
最前線の随所で、重戦車隊に先行する歩兵たちが、21センチ榴弾砲による天からの破壊を免れた建物の中へと侵入してゆく。まとう戦闘服は戦車の塗装と同じ
四名の歩兵が、班長に従って建物へ入ってゆく。中は薄暗く、不気味に静まり返っている。班長は二階へ続く階段を覗き込み、二名に付いてくるよう無言で指示を出す。他の二名が一階のクリアリングを始める中、班長を先頭に三人で階段を軋ませる。二階へ顔を出す寸前、班長は立ち止まり、右手を掲げ拳を握った。ハンドサイン通り、後続の部下たちは立ち止まる。それを振り返って確認すると、班長は慎重に鉄兜を二階の床の上へと覗かせた。
瞬間、複数の銃撃音が重々しく轟き、班長は慌てて身をかがめる。シュタールヘルムの真上を敵の強力な小銃弾がかすめ、左側の壁に次々突き刺さってゆく。
しかし、すぐに、銃声にまぎれて甲高い金属音が聞こえる。特徴的な弾倉クリップの排出音、撃ち切りの瞬間だ。間髪入れず、班長は張り叫んで飛び出した。
「
合衆国軍歩兵が全長70センチ以上ある長細い半自動小銃にクリップを装填しようと難儀しているところに、三人は収まりの良いコンパクトな銃を振り回し、小口径弾の嵐を叩きつける。五名いた敵歩兵は瞬く間に血だるまとなり、室内の掃討が完了した。
耳をすませば、隣の建物からも、敵の重い銃撃音と甲高い金属音の直後、プロイス語の怒声とともに軽快な射撃音が響いてくる。
班長たちが、それを頼もしく聞いていると、建物がかすかに揺れ出す。しかし、彼らの顔は不安に染まることなく、むしろ上気した。
「戦車様のお通りだ!」
班長が興奮気味に叫ぶ。
「さあ、他の部屋も確認した後、俺らも進むぞ! 他の班に遅れを取るなよ!」
ガーリー軍の援護に来た合衆国軍は、数の暴力が通じない敵装甲擲弾兵の活躍に、困惑し始めていた。
アンダーソン元帥が、町の西側、敵から最も遠いところでコーラを仰ぎ、舌打ちする。
「一体どうなっとるんだ!? 敵は素人兵ばかりのはずではないか! なぜ圧倒的多数にも関わらず、こうも後退を強いられているのだ!」
卓上の地図に示された町の中の前線は、新たな情報がもたらされる度、刻一刻と自分の方へ押し寄せてくる。初めは、あくまで援護砲撃による効果で進めているだけであり、歩兵同士の戦いになれば、数で勝り、かつ、先進的な半自動小銃を擁する合衆国軍が有利と高をくくっていたが、どうも実際に接敵したところが、異様な早さで崩されている。
予想に反した展開に憤る司令官に対し、副官が新しい情報を報告する。
「閣下。どうやら敵歩兵の使用している銃は、ボルトアクション式のカービンではなく、最新式の“アサルトライフル”のようです」
アンダーソンが目を剥く。
「What!? StG44.Kか?!」
「はい、それに酷似しているとのことです」
「God damm it! 奴ら、つい二か月前まで何の資本もなかったくせに、戦車に大砲、新型の偵察機に留まらず、銃まで最新のものを作ったというのかっ! これだから、絶対にプロイス人に資本も技術も二度と与えてはならんのだ! 戦争に狂った血濡れた民族め!!」
傲慢と慢心が得意な元帥には知る由もなかっただろうが、少し慎重になって敵情を探っていれば、合衆国軍の先進的な半自動小銃をも凌ぐ、世界最先端の歩兵銃たる“アサルトライフル”、プロイス語で言う
フレッドが抱擁して出迎えた幼馴染、装甲軍軍楽隊隊長のエリス・フォン・カレンベルク中佐の実家は、元カレンベルク男爵家という実業家一族であり、父ハインリヒは、軍需企業の重役を務めていた。当然、戦時中は軍部との繋がりが深く、特にハインリヒは陸軍の小火器開発に関与していた。
ハインリヒの功績は多かったが、その中でも大きなものが、突撃銃の開発であった。歩兵の標準装備銃器として長らく、旧式で連射ができないボルトアクション小銃に甘んじてきたプロイス軍が、逆襲の一手として投入した世界に類を見ない画期的な歩兵銃――それが
優れたポテンシャルを持つ革命的な銃だったが、製造の開始は遅きに失した。この画期的な銃が前線へ十分に行き渡る前に、カイテル元帥が降伏文書へ署名してしまったのである。
この戦略的な失敗を繰り返さないため、マンシュタイン社長はエリスと同時に、父ハインリヒをStG44.Kの設計図とともにスコーピオン重工に雇い入れ、突撃銃の量産を命じたのだ。この重要人物の採用を見逃したことは、合衆国軍の怠慢に他ならない。結果、元カレンベルク男爵ハインリヒは技術顧問らと協力し、社長の期待通り、改良版の
どうせ敵は旧式のボルトアクションだと、半自動小銃を構えてニマニマする合衆国軍歩兵は、眼前に現れた世界最先端の小さく強い突撃銃と、そのサブマシンガンのごときフルオートの連射を前に、驚きながら自らの血に沈むほかない。
強力な突撃銃によって、建物内に潜む大量の敵歩兵を虱潰しに排除してゆき、歩兵によって制圧されたエリアをレーヴェ重戦車が大地を揺らしながら前進して、敵戦車を相手取る。大量の歩兵を前面に押し出し、自由軍の装甲擲弾兵と重戦車を数で圧倒しようという連合軍に対し、マンシュタイン元帥が重視する歩戦協同の戦術が、即席と揶揄される第一装甲師団において適切に機能していた。
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