4、竜と少年。 4th:The Drake girl and the Boy.
アルバルファルデンが死んで暫らくたつが、心の中でまだ唄が轟いている。
あんなに壮大な、厳かで雄大に死ねる生き物は地上には絶対居ないだろう。誰かの心に響く死に方は清く正しい
アルバルファルデンと共に空を泳いでいた竜や竜蟲は哀愁を漂わせながらアルバルファルデンが居た場所を後にする。そして数体の竜がこちらに向かい飛んできた。
「……フィーリアに告白して、アーフブルに来て、龍の死を見て、何だか今日は不思議な事がいっぱいだな。―夢みたい」
僕は今の想いを言葉に紡ぐ。うまく言葉に出来ないけど、それでも何とか必死に紡ぐ。
「ううん。夢じゃないよ。現実だよ。―いっその事夢だったらいいのに」
「だけど夢にはいつかがくる。どうやら僕は帰らなくちゃいけないみたいだ」
僕たちの周りを、数体の竜が囲む。そして僕の事を睨みつける。
『何故下界の猿が、我らが聖域に?アーフブルは龍が坐わす聖なる地。噛み砕いてやろうか』
『フィーリア様ッようやっと見つけましたぞ。さあさこちらに。貴方様のような、いと尊き身の御方が下界の猿に近付いては穢れてしまいます』
『己ぇ、我らと龍様ら地上から追いやるだけでは飽き足らず、この天界までも欲するというのか!!強欲な猿め!!』
…何となく想像はしてたが、容赦なく浴びせられる竜による罵詈雑言に怯んでしまう。殺気がすごい。少しでも身動きしたら即座に首が飛びそうだ。
そんな殺伐とした空気をフィーリアは打ち払う。
「…黙りなさい。私の恩人に対してその様な口の利き方は今直ぐに止めろ」
小さな声だが、その言葉が放たれた瞬間、あれだけ僕に暴言を吐いていた竜らは一斉に黙った。
「…彼は私が下界に落ちた時に助けてくれた命の恩人です。―それに私の大切な人なの。我が名において彼に対するこれ以上の狼藉は禁止します」
『なりませぬ!下界のさr、者に対して寡聞な対応は!!下界との交流は掟により禁s『―ふふふ。いいではありませんか。その程度の事』
背後から突然声が聞こえ皆一斉に振り返る。そして声の主を見た瞬間、竜たちはフィーリアを含めすぐさま跪いた。
黄金に光り輝く龍がそこにいた。幾何学模様が腹で輝く、竜の落とし子のような龍だ。
『―掟とは下界との争いを防ぐ為にあるもの。それに人間と想いを交わしていけないのなら、この世界に竜族は生まれなかったのですよ?私とコルベルンの想いを否定するの?』
龍の問いかけに、先程まで口を開いていた竜は慌てて頭を振る。
『い、いえ。滅相もありません、ハーマフレン様。しかし竜族が人と交わる訳には』
『いいじゃない。愛に種族は関係ない。人間はみんな穢れているわけではない。コルベルンは私に愛を教えてくれたわ。―フィーリアはその少年に助けられ恋に落ちた。素敵な話じゃない。私は認めるわ。二人の愛を』
思わぬ援護射撃にフィーリアは頭を下げる。それをみて僕も頭を下げた。
「ありがとうございます!ハーマフレン様」「ありがとうございます」
非常に嬉しそうにフィーリアは言った。言葉が弾んでいる。
『だけど、愛には分別も必要よ。あと他人を思いやる優しい気遣いもね。だから、二人は雨の日のみ会えるってのはどう?昔、そこの少年君との思い出を幸せそうに語ってくれたものね。雨の日が大切なんでしょう。落し所としてはこれ以上無いぐらいうってつけでしょう』
と含蓄のある言葉に、フィーリアと僕は押し黙る。確かに人間の身である僕が頻繁にアーフブルを訪れるのは問題だろう。というか、そもそもの話、一人じゃこっちに来れないし。
そのところフィーリアもよく理解しているのだろう。顔を少し朱色に染めつつ渋々頷いた。
『これでもうこの話はお終いね。族長の方には後で私が言って聞かせるから安心おし。フィーリアは3年も家出してんだから、早く國に帰りなさい。この子は私が下界に送ってあげます。早くしないと日が暮れちゃいますからね』
ハーマフレンはそう言うと僕をひょいと口で咥え空を泳ぎ始めた。
「優くーん!!雨の日になったら絶対に会いに行くからねぇええ!!待っててねぇええ!!!」
フィーリアは叫ぶ。
「フィーリアあああ!!僕、絶対に待ってるから!ずっとずっと待ってるから。雨の日に、あそこで、あの場所ですっと待ってるからああ!!」
ものすごい勢いでフィーリアたちから離れていく。
さっきまで居た森は一瞬で豆粒みたいに小さくなり、近くにあった雲は次の瞬間にははるか後ろに
いつの間にか、雷雲の中を突き進んでいた。雷鳴を置き去りにする速さでぐんぐんアーフブルから離れていく。
そして僕は、ハーマフレンの背中で静かにこう囁いた。
「ばいばい。僕の大好きなフィーリア。愛してる」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
傘を片手にあの茂みの脇の鉄柵に腰掛けながら、僕は回想を終える。
あれが僕が体験した不思議な、それでいて大切なひと夏の思い出だ。
あの日以降、当然のことだがフィーリアが学校に事は無かった。
どうしてかって?―照れるなぁ。僕の思い出を知っているなら分かるだろう?
どうしても僕の口から聞きたい?仕方ないなぁ。
何故なら雨の降る日は―。
柔らかな風が吹き僕の後ろ髪を撫でた。それと同時に、フサっとなにかが草村に降り立つ音が聞こえた。
――そして。
「ただいま。優くん」
雨の降る日。僕は彼女と会えるからだ。だから僕は寂しくない。
そして、僕は笑顔でこう応える。
「お帰り、フィーリア」
――竜と少年。《完》
The Drake girl and the boy.
~~fin~~
竜と少年。 The Drake girl and the Boy. 鬼宮鬼羅丸 @odekira
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