盲目の極彩色

水瓶と龍

第1話 盲目の極彩色

空は青。青は優しい、爽やか。

地面は灰色。灰色は硬い、白より汚い。

土は茶色。茶色は汚い、濡れると滑る

桜はピンク。ピンクは可愛い、優しい。

パンジーは黄色い。黄色は可愛らしい、たまに危険になる。


僕は目が見えません。

生まれつきの病気で、一度も「世界」と言うものを見た事がありません。

でも、僕の心には、色んな色があり、街の風景があります。地図が広がっています。

詳しい人は、それを「マインドマップ」とか言うけど、僕にはよくわかりません。

僕にはそれが当たり前だからです。

世界には、色んな色があります。

それは、先生やお母さんやお父さんやヘルパーさんが教えてくれます。

天気が良かったら青空が広がります。青は爽やかで、夏によく合います。

春になると桜が咲き、街はピンク色に染まります。ピンク色は優しくて可愛くて、女の子が好きな色です。でも、春のピンクはすぐに終わってしまいます。それは桜があっという間に咲くのをやめてしまうからです。だからピンクは少しせっかちな色です。

地面は灰色です。灰色は硬くて色んな汚れが付いています。でも硬くて形を変えない事が多いので、頑固です。きっと話してもあんまり意見を聞いてくれなさそうな気がします。

浴衣は藍色です。

浴衣は夏に来たり、旅館に行くと着られます。日本の昔からある着物です。でも今は洋服を着る人が多いので、浴衣は特別なものです。だから藍色は特別な期間の色です。

藍色は色んな思い出を語ってくれます。

太鼓の思い出や出店の思い出、きっと優しい色だと思います。


僕は目が見えないので外を歩く時や、慣れない部屋を歩く時は苦労します。

良くものにぶつかったり、外だと車にぶつかってしまう危険もあります。

車は大きくて硬くて速いからぶつかると大変です。大怪我をしてしまうかも知れません。

少し前に、目の見えない人とヘルパーさんが青信号を渡っている時に信号を無視した車に轢かれて亡くなってしまいました。車は危険です。だから、僕は外で歩いている時に車の音を聞くと緊張してしまいます。車もトラックやオートバイや普通の車や色んな音を立てて走ります。僕は目が見えないので音でどんなものかを考えます。

トラックは大きくて、白くて力持ち。

オートバイはうるさくてあっという間に飛んで行ってしまう。

急にクラクションとかを鳴らされるとびっくりします。やめてほしいです。


外には色んな色があります。

それは一緒に歩くお母さんやお父さんや先生やヘルパーさんが教えてくれます。

秋には黄色い葉っぱが木になります。赤い葉っぱもなります。それは紅葉と言います。

秋になると、その葉っぱたちが色とりどりに空を埋め尽くしてまるで優しいパレードの様だと教えてくれました。

パレードというのは大勢の人が音楽を鳴らしたり、踊ったりしながら行進するものです。だから、秋は愉快な季節だと思います。

夏は緑がたくさん増えます。そして蝉や虫の鳴き声が沢山響いて、子供たちが外で走り回ります。

夏の空は特別に青くて雲は特別に白くなると教えてくもらいました。

だから夏は元気な季節です。きっと色んな遊びを考えてくれるモノだと思います。

春は花が咲き乱れるってラジオで言っていました。

花はカラフルな色をしています。

赤や青や黄色やピンクや紫。

だから春は賑やかなモノだと思います。

暖かくなって、なんだかワクワクする季節です。

世界には色んな色が溢れています。

それは皆んなが教えてくれました。

目が見えなくても、僕の心の地図の中では色んな色が生きています。


夏の前には雨が降ります。

雨は太陽を隠して、暗くし、傘が無いと濡れて風邪をひいてしまいます。

ちょっとだけ、嫌なモノかも知れないと僕は思います。

だって、雨が降ったらいつもよりも外に出るのが大変になるからです。

でも、僕は雨が好きです。

雨は水色、透明な色、濡らす色、色を変える色。

雨が無いと花も咲かないらしいです。

だから、雨は大事なものです。

でも、僕が雨の事を好きな理由はそこにはありません。

雨の後には虹が出ます。

僕は必ず雨上がりの空の色を聞きます。

お母さんに、お父さんに、先生に、ヘルパーさんに。

そして運が良ければ虹が見えるよ、って教えてくれます。

僕はその時、必ず同じ質問をします。

虹色ってどんな色?

そうすると、皆んなこう言ってくれます。

「虹色は凄くキレイな色だよ」

沢山の色が混じり合って、でも、沢山混じってるけど1つの「虹色」になります。

僕はそのキレイな虹色が大好きです。


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盲目の極彩色 水瓶と龍 @fumiya27

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