トリコックス
私はトリコックスと呼ばれていた。トリケラトプスとエキノコックスを合体したようなセンスのない名前だ。アオメムシクイには申し訳ない事をした。少し派手にやりすぎて、ここが中間宿主だとばれてしまった。
最初、私たちはフィンランドの湖で生まれた。脳には多くの知識が予め備わっていた。神秘としか言えないようなものだ。物理の限界を超えた極小域に私たちの真価があった。
私たちは世界を見るために、湖の魚に寄生した。鳥がその魚を食べてくれたので、さらに遠くまで見ることが出来た。人間を知ったのはその時だ。人間は圧倒的に繁栄していた。彼らを宿主にすれば、自分たちもかなりの繁栄を見込める。そこでまずアオメムシクイに寄生した。警戒されずに人に近づき、じっくり観察した。次の段階として人の内部を見たかったので、とりあえずビービー鳴いてもらった。どうも首尾よく、ある個体が人間に捕獲された。目論見通り体内に入ると、栄養の宝庫だった。特に赤い液体は素晴らしい。私たちはここを子育ての家に決めた。無性生殖によって死ぬまで全力で子どもを放った。子どもたちはほぼ同時に孵化し、赤いのを貪った。その子たちにはテレパシーだけでなく、直接情報を聞きたかったので急いで成長してもらってすぐに外に出てもらった。その過程で宿主が死ぬことが判明したのは思わぬ誤算だったが、それに見合うほど急激な成長を遂げた。子どもたちは空中を泳げる身体になっていたのだ。
この代になってからは準備期間だった。アオメムシクイに寄生し、人間に隠れてあの鳥たちを繁殖させて、育成した。思い通りに制御出来なくなった一羽が同胞を体内に入れたまま「コクガイ」に行ってしまったのは、本当に悲しい事故だった。でもおかげでアオメムシクイの調教の精度は上がったし、人間寄生のサンプルも増やすことが出来た。
ここで1つ、一斉に寄生してみた。どうもクニなる概念の下に土地を区切っているらしいので、人間を尊重してそのクニの範囲内で実験をした。成果は上々で、人間から直接人間に寄生するのが理想的だと分かった。
次はいよいよ寄生場所の選定だった。人間が密集してる場所を探し回った。アオメムシクイにはその土地の気候に合うようにだいぶ無理な進化を強いた。人間はうるさく鳴くほど殺して喰ってくれる公算があると分かっていたので、良さそうな場所ではとにかく鳴かせた。成果は上々だった!! 私たちはあっちでもこっちでも人間に住み着いた。
でもそこからが問題だった。赤いものが美味しすぎた。思うままに食うと段々餌が減ってまずくなる。だから子どもたちは別の餌に向かってすぐ飛び出してしまうのだ。食欲を控えろと言う命令を聞く子もいれば聞かない子もいた。しかも人間はあろうことか子どもたちの家を殺しだした。空き家まで殺したのを見るに、たぶん気が狂ったんだ。まずいことに、アオメムシクイが乗り物だということもばれたようで次々に壊されてしまった。
私たちは徐々に撤退を余儀なくされ、結局最初の湖に帰ってしまった。
まったく、餌を間違えちまった。
オルセン症 仁藤 世音 @REHSF1
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