葡萄月二十五日


 カーティスと踊れるなんて夢を見ているようよ。まだふわふわとした感覚が残っているわ。とっても幸せで、この時間が永遠に続いてくれたらいいのにと思うのに、楽しい時間ってあっというまに終わってしまうものなのよ。

 だけど、カーティスが優しく抱きしめてくれたあの時間を忘れたりなんてしないわ。優しい彼の匂い、温もり、視線。全部私だけのものなの。

 だけどカーティスったら酷いわ。私との関係は秘密だって。いつだってそればかりなの。やっぱりとってもシャイだからなのかしら? それとも、私との関係がバレてしまったら国に居られなくなるってこと? 一体誰がそんなことをするのかしら? 

 お父様ったら、私にはとても甘いからきっとカーティスとの結婚もすぐに許してくれると思うの。だけど、カーティスはそうは考えていないみたい。難しいことね。

 でも、今まで一度も手紙に返事をくれなかったカーティスが手紙を書いてくれると約束してくれたもの。きっと今まで私を不安にさせてしまったことを後ろめたく思ってくれているのね。勿論カーティスの為なら沢山我慢もするわ。だけど、お兄様の前で思わせぶりな態度だけは改めてほしいものね。だって、兄妹って好みが似てしまうじゃない? それに、私とお兄様はかなり外見が似ていると言われてしまうもの。私に会えなくて寂しいカーティスがお兄様を代替品にしてしまおうと考えても無理はないと思うの。勿論、私の方がとってもかわいいに決まっているけど。

 自分で言ってしまうのは少しはしたないとは思うけれど、私は容姿には恵まれている方だと思うわ。それに王女だもの、それなりにお手入れもきちんとして貰っているし、沢山飾るだけの財力もある。それに、真面目にお勉強もしてきたからそれなりに教養もあるつもりよ。教師たちはよく褒めてくれたもの。だから、きっとカーティスも私のことを認めてくれると思っていたわ。勿論、カーティスを支えていくためにこれからも沢山お勉強もしていくつもり。

 だけどカーティスは一体なにに怯えているのかしら?

 彼を苦しめる障害はすべて排除したいわ。その原因がお父様だったときは……その時はその時で対処するつもりよ。

 スパイシー・シュガーは怖い女なの。恋のためなら劇薬にも変わるわ。

 だから、カーティス、あなたのために私をもっと利用していいのよ。お金も権力も美貌も、全部あなた道具にしていいの。愛のためならなんだってできるわ。

 ああ、カーティス。あなたの愛があればなにも怖くないの。どうか私と一緒になると誓って頂戴。あなたのためなら国だって差し出せるのに、無欲なあなたはそれを望まないの。

 いいのよ。あなたの愛の囁きひとつで私の心は救われるのだから。

 もうすぐ建国祭があるわね。目立つことはあまりしたくないとカーティスは言っていたけれど、あなたも参加してくれるかしら? 遠目からでもあなたを見られたら嬉しいわ。林檎月に相応しい林檎色の装いにしようと思っているのだけど、あなたの好みだと嬉しい。髪飾りは林檎の葉のような細工の蛍石なの。一目でいいから、あなたにも見て欲しいわ。きっと見てくれるわよね?

 それに、あなたなら、無理をしてでも会いに来てくれるって信じてるわ。


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スパイシー・シュガーのカーティス日記 高里奏 @KanadeTakasato

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